NPO法人再生医療推進センター

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謹賀新年20200101

【令和2年 年頭所感】


令和2年の新春を迎え、謹んでお慶び申し上げます。


当再生医療推進センターは設立から19年の星霜を経ました。この間に再生医療は安全性と有用性を踏まえつつ、確かな歩みを進めており、欣快の至りです。iPS細胞(人工多能性幹細胞)、ES細胞(胚性幹細胞)から作製された細胞を移植する臨床研究及び臨床試験が始められ、体性幹細胞によるいくつかの再生医療等製品が承認されています。再生医療は、基礎研究の段階から難治性疾患の治療法として患者さんに応用する段階に入りました。


再生医療は、病気やけがで損なわれた臓器や組織の働きを再生させるため、細胞や組織を幹細胞などから体外で培養や加工などを通して作製し、体に移植する医療です。難治性疾患等への有用性からiPS細胞への関心は高いものがあります。ただ、iPS細胞を用いた治療薬の臨床応用は開始されましが、研究途上の取組も多く、製品化にはまだ時間を要するでしょう。一方で、間葉系幹細胞はiPS細胞に比べて、多能性については乏しいものの、低侵襲性と安全性、そして費用や時間が比較的かからない等の利点から製品化が先行しています。


再生医療等製品として保険診療として承認されている製品には、火傷などの治療に使われる自家培養表皮、軟骨損傷に適用される自家培養軟骨、心不全の治療に用いられる自家骨格筋由来細胞シート、あるいは骨髄移植の際の急性移植片対宿主病に対する他家骨髄由来間葉系幹細胞、さらには脊髄損傷の治療に使用される自家骨髄間葉系幹細胞などがあります。間葉系幹細胞による臨床試験は、慢性期脳梗塞および外傷性脳損傷に対する他家骨髄間葉系幹細胞、あるいは肝硬変の治療としての他家脂肪組織由来幹細胞などで進められています。


iPS細胞による臨床研究、あるいは臨床治験は、滲出型加齢黄斑変性症、パーキンソン病、角膜上皮幹細胞疲弊症、再生不良貧血症、亜急性期脊椎損傷及び心不全などで進められています。今後の臨床応用としては、炎症性腸疾患、変形膝関節症などでも準備が進められています。難病の患者さんからiPS細胞を作製した後に目的とする細胞に分化誘導することにより、難病の原因解明や新しい薬の開発、既存薬の転用(ドラッグ・リポジショニング)も進んでいます。既存薬の転用としては筋肉の中に骨ができる難病(進行性骨化性線維異形成症)、進行性の難聴を引き起こす遺伝性の病気(Pendred症候群)などは臨床試験が始まりました。今後、筋委縮性側索硬化症に対する臨床試験が行われる予定です。また、iPS細胞を用いたミニ肝臓が高い品質を確保して製造することが可能となり、さらに肝臓、胆管と膵臓を同時に作製することにも世界で初めて成功しています。


ES細胞から作製された肝細胞を重い肝臓病のある乳幼児に移植する臨床試験が進められています。ES細胞を使った国内での人を対象にした臨床研究は初めてであり、世界的にも肝臓への移植は初めてです。日本では2001年の国の指針でES細胞の使用を基礎研究に限定しましたが、2014年に国は指針を改め、治療を目的とした研究利用が可能になりました。ES細胞の治療研究も国内で進めば、体性幹細胞、iPS細胞と高めあうことで再生医療の進展に弾みがつくことでしょう。


新たな幹細胞として、人の皮膚や骨髄などの中に、いろいろな組織や臓器に成長する能力を持つ新たな多能性幹細胞として“Muse細胞”を使った新たな再生医療の実現が期待されます。現在、急性心筋梗塞、脳梗塞、表皮水疱症および亜急性期脊髄損傷に対する臨床試験が進められています。


一方、多能性幹細胞を用いることなく、患者さんの体内で病気の治療につながる細胞を作り出す“ダイレクトリプログラミング技術”は、費用と時間があまりかからず、拒絶反応やがん化のリスクが低いなどの優れた点があり、新たな再生医療として関心が高まるでしょう。現在、ヒト心臓繊維芽細胞から直接心筋様細胞の作成への取組、脳や脊髄の中で通常は免疫細胞として働くミクログリアに、特定の遺伝子を1つ導入するだけで、機能的な神経細胞に直接変化させる研究が鋭意進められています。


幹細胞による再生医療を広く普及させるためには均一な品質の細胞を低価格で大量に製造する技術の開発が必須で、そのためには企業の参入が不可欠です。また、新しい医療技術の開発には、社会と患者さんの理解と協力が必要です。一日でも早く実用化を達成するために倫理と安全性に配慮しつつ慎重に研究開発が進められことが求められます。


当再生医療推進センターの事業の目的は、再生医療の進歩及びその実用化に寄与するための活動を通じて、保健、医療及び福祉の向上を図ることにより社会に貢献することです。双方向の情報のやり取りを基本に、“より正確で、より適切な、より迅速な”、再生医療の正しい知識の啓発および情報提供を心がけております。2005年開設しました再生医療相談室はいずれも難治性疾患等に関する幅広い医療相談が寄せられ、現在680件に至っております。加えて、HP上で再生医療トピックス、組織情報などを発信いたしております。


10年先を俯瞰した時のわが国の課題の一つは、社会保障費の拡大です。生涯にわたる治療を必要と疾病は、膨大な数の患者さんとご家族のQOLの低下と経済的な負担を増加させます。例えば、2030年には認知症の患者さんは744万人との推計があります。2030年には国民医療費と後期高齢者医療費の合計は76兆円との予測があります。再生医療は10年先に直面するこの課題を解決する切り札の一つです。再生医療が希望をつなぐ治療として患者さんに受け入られるようになるためには、正しい再生医療に対する情報提供、啓発が不可欠です。また、患者さんと医療機関、医療機関と厚生労働省を繋ぐ、公正で透明性がある橋渡し役が求められます。このような問題意識に基づき、当センターは、今後も再生医療の情報発信拠点として、また再生医療の橋渡し役としての代りのない存在を目指します。今後もiPS細胞、ES細胞、体性幹細胞など、それぞれの研究・治療開発を公平に応援して参ります。難治性疾患に対する画期的な治療法を待ち望んでおられる患者さん、一般市民の方々に対する公平・公正な情報発信に努めてまいります。


最後に、皆様の一層の御理解と御支援をお願い申し上げるとともに、本年が皆様一人ひとりにとって、実り多き素晴らしい一年となりますよう、心よりお祈り申し上げます。


2020年元旦

NPO法人再生医療推進センター

理事長 井上 一知