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再生医療用語集

2019年 年頭所感

 新春を迎え、謹んでお慶び申し上げます。


 厚生労働省の再生医療等製品・生物由来技術部会は昨年11月21日、札幌医科大学と共同研究しているニプロ(株)が承認申請した脊髄損傷治療に用いる自家骨髄幹細胞について再生医療等製品として承認することを了承しました。再生医療の進展を目指してきた私には欣快の至りの知らせでした。新年を迎えるにあたりまして、ここに至るまでの我が国の再生医療の道程を簡単に披歴させていただきます。


 2000年に細胞療法研究会を発展的に解消し、2001年に日本再生医療学会とNPO法人再生医療推進センター(以下、当センター)を同時に設立しました。当初は、再生医療という言葉はもとより、英語圏でも適切な表現はありませんでした。Regenerative Medicineは私たちが作った和製英語でしたが、今や世界中で使用されています。


 日本再生医療学会は当センターと密接に情報交換を行い、相互の発展をめざしつつ、再生医療の進歩、発展及びその実用化に寄与することが設立時の会則に明記されていました。日本再生医療学会は再生医療研究を、当センターは再生医療の啓発活動を推進するという役割分担が行われ、当センターは設立当初から再生医療の啓発、再生医療相談、講演会などを行なってきました。現在当センターは、学会とは別個の法人組織として学会と共同しながら、再生医療の推進活動に邁進しています。


 

 2002年、京都国際会議場にて第1回日本再生医療学会総会が開催され、医学、工学、薬学、理学、農学そして一般市民の方々など2,000人が参加されました。再生医療の社会的な認知が高まりだした、「第一のあけぼの」でした。


 ES細胞(胚性幹細胞)が大きな話題となり、期待度は高まりました。体性幹細胞(骨髄、脂肪幹細胞など)では骨髄幹細胞の研究が先行しており、2004年頃には札幌医科大学の本望先生(現教授)らは、同幹細胞を用いた脳梗塞に対する治療研究を始めておられました(2013年2月より、脳梗塞患者に対する医師主導治験(第Ⅲ相試験)を開始)。


 2012年に京都大学の山中教授がiPS細胞(人工多能性幹細胞)の作製に関する研究でノーベル医学・生理学賞を受賞され、再生医療は再び注目を集めました。第1種のiPS細胞、ES細胞、そして第2種の体性幹細胞の治療研究は着実に進んできました。しかし、安全性、低侵襲性、簡便性、拒絶反応などに優位性がある脂肪幹細胞を用いた臨床研究、特に治療が急速に進展しています。


 現状では、再生医療の研究・治療を実施する場合、特定認定あるいは認定再生医療等委員会(厚生労働省認可)の審議を経て、厚生労働大臣に提供計画を届け出る必要があります(再生医療等の安全性確報に関する法律(2014年11月))。12月29日時点で、同省が公開している研究・治療提供計画は、iPS細胞は加齢黄斑変性と心筋細胞シート移植に関する研究が2件であり、治療は0件です。ES細胞は研究・治療と共にありません。一方、脂肪幹細胞は、研究で18件、治療で94件と驚くべき速さで進展しています。この発展を支えているのは、高い安全性と有効性です。今や、脂肪幹細胞による治療は、一般のクリニックでも、特定認定あるいは認定再生療等委員会の審査を経て、厚生労働省への研究・治療計画を届出て、受理されれば、提供することが可能です。


 昨年8月5日に当センターが主催しました講演会(当センターホームページ 難病治療に新しい光)における脂肪幹細胞の静脈点滴のよる筋委縮性側索硬化症(ALS)と慢性閉塞性肺疾患(COPD)の症状の改善が広く日本中に周知されますと、これら難治性疾患に関する治療の急速な進展と患者さんの希望へと繋がります。


 iPS細胞、ES細胞それぞれの研究・治療開発を公平に応援していく所存です。難治性疾患に対する画期的な治療法を待ち望んでおられる患者さん、一般市民の方々に対する公平・公正な情報発信に努めてまいります。脂肪幹細胞などの間葉系幹細胞による新たな再生医療の取組が進展していく中で、「18年ぶりの再生医療の第二のあけぼの」が到来したと感じており、この状況を広く世界の人々に発信してまいります。


 

 2020年、さらにその先を見据えながら、「第二のあけぼの」に向けて、会員の皆様と手を携え、改革を力強く進めていく決意です。

 

 最後に、皆様の一層の御理解と御支援をお願い申し上げますとともに、本年が、皆様一人ひとりにとって、実り多き素晴らしい一年となりますよう、心よりお祈り申し上げます。

 

2019年元旦         

NPO法人再生医療推進センター 

理事長 井上 一知