NPO法人再生医療推進センター

再生医療相談室 回答ページ No.241


専門分野: 脳・神経・脊髄

Q: 脳外傷の治療法

 前略 17歳になる息子が突然の交通事故で、意識遷延になり7ヶ月が経ちました。損傷は、脳梁の4分の3、中脳、橋、右脳で担当医は、脳梁以外はそれほど深刻な事は無く、もしかしたら、びまん性の軸索損傷の影響で意識が戻らないのでは、との事です。以前見ました回答で、(脳細胞の移植では、今のところ神経伝達物質や神経栄養因子といったものを脳内に供給するくらいのことしかできませんので、遷延性意識障害のように、 かなり脳が広範囲にわたって障害されている場合、治療としての手段にはなかなかなりにくいと思います)と有りましたが、上記の状況で少しでも可能性が有る方法等が、御座いましたら、国内、海外問わず、治療をして頂ける医療機関の情報を頂けたらの思いです。

掲載日: 2008.11.24

A:

 神経系の障害に対する再生医療については、再生医療相談室(004,167)で取り上げています。その後の新たな情報を付け加えて、再生医療の臨床応用の現状と展望についてお答えいたします。
これまでに神経疾患に対する再生医療として臨床応用が行われたのは、パーキンソン病患者さんと、脳梗塞(慢性期)患者さんに対してであり、ともに米国で行われました。パーキンソン病患者さんに対しては胎児脳から採取した神経細胞の移植が行われましたが、今のところ顕著な治療効果は得られていません。脳梗塞(慢性期)患者さんに対しては、ヒトの細胞株を樹立してその細胞を注入する治療が行われ、神経症状の改善が認められたということであり、今後の臨床応用の展開が注目されます。
現在、神経系の疾患に対する再生医療として臨床試験が開始されている、もしくは予定されている疾患は、パーキンソン病、多発性硬化症、脳梗塞、急性散在性脳脊髄炎、脊髄損傷などであり、頭部外傷に基づく脳神経系の損傷は、今のところ、再生医療の臨床試験の対象にはなっていません。しかしながら将来的には、パーキンソン病、多発性硬化症、脳梗塞、急性散在性脳脊髄炎、脊髄損傷などに対する再生医療の臨床応用が進展し、有効な治療法が開発された段階で、頭部外傷に基づく脳神経系の損傷や、脳腫瘍に対する手術後の患者さんに対しても、脳神経系の再生をめざして細胞を用いた再生医療が行われるようになる日が必ず来るものと期待されます。
最近のニュースとして、2005年8月に関西医科大学医学倫理委員会で、脊髄損傷に対する再生医療の臨床試験が初めて承認されました。具体的には、関西医科大学高度救命救急センターにおいて、「急性期脊髄損傷に対する培養自家骨髄間質細胞移植による脊髄再生医療(第1相〜第2相臨床試験)」の実施が承認されました。この治療法は、患者さん御自身の骨髄液中に含まれる骨髄間質細胞を、患者さん御自身の脳脊髄液中に投与する方法を用いるので、拒絶反応の心配が無く、免疫抑制剤も不要です。脊髄損傷に対する初めての再生医療の臨床試験であり、その成果に対する期待には大きいものがありますが、私たちとしてはあせらずに、ゆっくりと見守っていく必要があります。
また、最近の新しい研究成果として、札幌医科大学において脳梗塞に対する効果的な再生医療の治療開発研究が進みつつあります。脳梗塞モデルを用いた動物実験で、自家骨髄細胞を静脈内へ注入すると(脳梗塞になった動物自身から採取した骨髄細胞を、その同じ動物の静脈内へ戻す)、脳梗塞に基づく神経症状の著明な改善と、脳梗塞の病巣の大幅な縮小(神経の再生と組織の修復がもたらされたことを示す)が見られました。札幌医科大学では現在、急性期の脳梗塞患者さんに対する自家幹細胞骨髄移植の臨床研究を計画中です。これらの臨床応用や研究成果は、将来的に頭部外傷に基づく脳神経系の損傷に対しても、再生医療としての適用が可能になり得るものと考えられますので、一刻も早い研究の進展が大いに期待されるところです。再生医療は新しい分野ですので、研究の進展によっては予期せぬ早さで画期的な治療開発研究の成果が得られ夢の治療に繋がっていく可能性も想定されます。今後ともにできうる限りの新しい情報を御提供していきたいと思います。
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