NPO法人再生医療推進センター

再生医療相談室

No.749 胎児期発症の両側精巣捻転症における今後の治療

項 目

内 容

専門分野その他
質問タイトル胎児期発症の両側精巣捻転症における今後の治療
質問内容

はじめまして、息子の相談をさせてください。

去年秋に男児を出産しました。妊娠経過は順調で合併症もなく、38週で経膣分娩となりました。出産直後より子供の陰嚢が腫れているように見えましたが、私も夫も子供の陰嚢をまじまじと見たことはなく。私の実母も男児を育てたことがないため、皆こういうものなのかと思い特に口に出しませんでした。翌日医師からは「陰嚢水腫の可能性があるため数日経過を見る。」との話がされ、退院前にエコーをしていただきました。産院でのエコーでは詳しいことがわからず、退院直後にすぐ近くの総合病院にて検査をしていただきました。検査の結果、両側の精巣捻転が疑われ、すぐに手術が必要だと話がされました。

その後こども病院にて手術がされました。両側とも360度精巣軸が捩れており、左の精巣は完全に壊死していたため摘出。右の精巣は再固定したものの、血流が滞っていた時間が長時間であったため、血流の再開は今でも確認できていません。医師からは「血流の再開はほぼ見込めず、精巣の機能も果たせないだろう。」との話を受けています。

正直もっと早くに対処したら結果は違ったのではないかと思うと、私も夫もとても悔しい思いでいっぱいです。産まれて5日で自分の精巣を失ってしまった息子を思うと、こんな身体にしてしまったものが本体に申し訳なく思い、悲しく辛い思いです。医師からは「おそらく捻転は、胎児期から起きていた可能性が高い。」と言われており、もっと早くに見つけられなかったのかと医療者に対して憤りも感じました。

息子は現在5ヶ月になります。精巣にはホルモン分泌機能と生殖機能が備わっているかと思います。小さいうちにはそういった精巣機能は必要ないかと思いますが、思春期以降とても重要になると思います。将来的には、思春期に入って男性ホルモンの補充療法が必要だと医師から言われています。ですが生殖機能については、そもそもの精巣がないために精子が作られず、治療の仕様がありません。将来息子は治療の選択肢が全くないままに不妊という結果を突きつけられてしまうのかと思うと、とても胸が痛いです。

再生医療の中で、現段階の細胞から精子が作れるようにはなりませんか。5ヶ月という身体の変化が一番変化する乳児期において、細胞治療か何かできないかと小さな希望を抱いて投稿しました。

現時点では何も治療ができないということは重々承知していますが、何もせずにただ時間が過ぎて後で後悔することはもうしたくないんです。何か治療の手立てが少しでも可能性として広がるならと思っています。よろしくお願いします。

掲載日2021年03月06日
回 答

現在でも、ES細胞やiPS細胞から精子を作ることは可能です(例えば、Hayashi K. et al. Reconstitution of the mouse germ cell specification pathway in culture by pluripotent stem cells. Cell. 2011;146:519–532.)。ただ、今のところ実験動物に限られていて、ヒトへの応用は認められていません(精子・卵子を作る研究は許されていますが、それらを受精させることは認められていません)。しかし、ご相談のお子さんが成人する20年30年先には、おそらく、自分の細胞を使ってiPS細胞を作り、それを精子に分化させることによって自分の精子が手に入り、それを誰かの卵子に受精させて子供を得ることが可能になっているのではないかと思います。

おそらく、今は何もできないと思いますが、将来は不妊の問題(自分の子供えお持つ権利)がiPS技術や生殖医療研究の進歩によって解決される可能性が十分にあるのですから、自信を持って子育てをやってほしいと思います。

ただ、不妊の問題が解決した段階で、男女のカップルであれば自然であるとしても、その技術の使用をどこまで広げるか(例えば、同性のカップルや独身者・高齢者など)は社会的な合意が必要となるかもしれません。ヒトで配偶子(精子・卵子)を作ってそれらを受精しても良くなる時期までには、そのような色々な議論が必要かと思います。。