再生医療相談室

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No.757 間葉系幹細胞投与によるALSの治療効果について

項 目

内 容

専門分野脳・神経・脊髄
質問タイトル間葉系幹細胞投与によるALSの治療効果について
質問内容

私はALS患者です。

国内で再生医療の一環として、ALS患者に対する間葉系幹細胞の静脈投与を行っていただける医療機関があると聞きました。

現在、私も是非チャレンジしたいと考えております。

しかし、この治療法でALS患者の身体機能が回復したとなると、大ニュースになると思うのですが、今のところ聞いたことありません。

実際、治療効果があった患者さんはいらっしゃるのでしょうか?

もしいらっしゃるのであれば、治療前にどのような状態だったのが、どのように回復したのか非常に知りたいところです。

治療をお願いする上で、たくさんのハードルが待ち構えていると思いますが、治療効果を実感されている患者さんがある程度いらっしゃるのであれば.、それを励みに是非ともチャレンジしたいと思います。 よろしくお願い申し上げます。

掲載日2021年08月04日
回 答

ALSの患者さんが再生医療を受けるかどうか考えておられるようです。いくつかの点が問題になっているようですから回答を考えてみたいと思います。

まず、「ALS患者の身体機能が回復したとなると、大ニュースになる」かどうかですが、実際に行われているのは製薬会社などによる治験ではなく、医師法の下(私費診療)で再生医療(自己由来間葉系幹細胞の静脈内投与)を行うという医療行為です(第二種再生医療に相当します)。これでALSが治ってしまうという結果であれば大きくとりあげられそうなものですが、そんなことは病気の性格上望むべくもありません。また、治験の場合は厳密な基準に基づいて参加が決まり、治療法も細かく決まっていますが、医師法の下での医療行為ではそのような基準は必要なく、患者と医師の相談でほとんどのことを決めることができます。それでも、再生医療をおこなう場合には再生医療安全性確保法の縛りは受けますから、倫理委員会を通す段階で治療法の基準(細胞を準備する施設や最低限の細胞数)などは決まりますが、患者と医師の相談で大抵のことはできてしまうという原則は変わりません。この結果として、マスコミでの取り上げ方は低調で、科学的にもあまり評価されません。論文でも通ればそれなりに評価されそうなものですが、参加基準がいい加減で色々な患者さんが対象になる点や投与細胞数のばらつきなどは大きな障害になると思われます。というわけで、ALS患者の身体機能が回復しても大ニュースにはなりにくい、という事情はご理解いただけるかと思います。

次に、「治療前にどのような状態だったのが、どのように回復したのか」という点ですが、以前に京都市のなぎ辻病院で行われたALS患者さんに対する再生医療では、行動範囲が広がって発症前にやっていたことが再度できるようになったというお話はきいたことがありますが、特にどこかで発表したという話は聞きませんから、書いたものはまだないと思います。

ただ、各種の間葉系幹細胞がALSに有効かもしれないということを示唆する研究成果(多くの動物実験や臨床研究の結果は、ALS症状の部分的な緩解を示している)は出ていますが、どんな症例に適応になるか、とか、どんな投与法が一番よく効くか、とには答えがない状態です。

ということで、結局のところ、ALSに効果があるか無いかはやってみなければ分からないということになるかと思います。はっきりした効果があった人もあると思いますが、中にはあまりはっきりした効果がなかった人も出るかもしれません。またその持続時間も人によってさまざまかもしれません。ただ、中枢神経の変性疾患や認知症など、従来、有効な治療法が無かったことを考えると、すくなくとも有効である可能性がある治療法が見つかったことは間違いがないと思いますから、できるだけ多くの患者さんに届けたいと思います。

現状では、何百万円も払って何回かの治療をうけることができる(必要な経費と治療回数は施設によって様々です)自費診療での再生医療ですが、必要な経費の大半は細胞の培養にかかる経費で医師や施設の取り分はあまりないのが現状です。細胞の培養にかかる経費がもう少し安くなれば、この治療法も一般的になるのではないかと回答者は考えています。