NPO法人再生医療推進センター

第8回 元気の出る再生医療 -周辺産業への期待、最前線の取り組み、企業紹介-


第8回 元気の出る再生医療 -周辺産業への期待、最前線の取り組み、企業紹介-

今回は再生医療の周辺産業への期待と最前線の取り組み状況について、その一端を担当理事から紹介していただきます。再生医療の産業化は想定以上の速さで着実な一歩を歩みつつあり、今後の普及がおおいに期待されます。

再生医療の最前線(5)

周辺産業への期待、最前線の取組、企業紹介 (NPO法人 再生医療推進センター 守屋好文)

1.はじめに

再生医療等製品が患者さんに提供されるまでには、細胞の採取、輸送、加工・培養などのバリューチェーンとしての周辺産業の存在があります。再生医療の進展は、これら周辺産業の成長が要です。そこで、今回は周辺産業の将来の市場規模について触れます。最前線の取組事例として、歯周病と白血病の新たな細胞治療にてご紹介します。企業紹介は、幹細胞を用いた基礎研究をされている企業と再生細胞薬の開発をされている企業についてです。

2.再生医療の周辺産業への期待

国内の再生医療の将来市場規模は、「元気の出る再生医療:再生医療の最前線(2)」で触れております。ここでは周辺産業の将来市場規模についてご紹介します。再生医療や再生医療研究を支援する製品やサービスを提供する産業は、再生医療の周辺産業と呼ばれますが、この周辺産業は、再生医療製品化、先進医療・臨床研究・自由診療による再生医療、大学・研究所・企業での再生医療の基礎研究で使われる装置類・消耗品類・サービス・創薬応用等を提供しています。図1によりますと、国内の再生医療の周辺産業の市場規模は、2012年の時点で172億円、2020年に945億円、2030年に5,514 億円、2050 年に1兆2,847億円と算定されています。再生医療分野の産業として裾野の広がりが期待されます1)

3.最先端の再生医療の取組事例

3.1 患者さん自身の幹細胞が歯周病を治す 大阪大学歯学部病院2)

成人の約8割が歯周病(注1)と言われており、40代から発症リスクが高いとされています。歯周病は歯茎や歯を支える骨が壊され、歯を失う大きな原因です。現在の治療法では、骨が溶け始めると進行を止めることはできますが、元に戻すことはできません。
大阪大学歯学部付属病院長、村上伸也教授らは、患者さんの腹部の脂肪から抽出した幹細胞を培養し、フェブリン(注2)に細胞を閉じ込め、それを歯周病によって欠損した部分に移植し歯茎や骨に再生させるという世界初の治療に取り組んでいます。移植された幹細胞は骨の再生を促すタンパク質を分泌しており、歯槽骨の形成を助け、時間をかけて骨や歯茎の細胞に変化するとされています。

村上教授は「自己の細胞なので副作用が少なく、簡単な手術で安全に治療できる。臨床研究を重ねて早期に普及させていきたい。従来の再生治療はGTR法(人工の保護膜を使用)、エムドゲイン法(豚の歯由来のたんぱく質を使用)があるが適用には症状に応じて制限あり、開発した治療法は重症な患者さんに適用できる」と語られています。

現在、臨床試験中であり、9ヶ月程度で経過しているが欠損部は修復されているそうです。メリットは、患者さんの歯を残すことができることです。治療費用はインプラント(注3)と同額をめざしています。来年春までに12人を対象に臨床研究を行い、安全性や有効性を確認し、実用化の目標を2〜3年後とされています。

(注1)歯周病:歯垢に含まれる細菌が引き起こす炎症です。歯茎や歯槽骨などの歯周組織を溶かし歯周ポケットと呼ばれる隙間をつくります。そのため、歯がぐらついて抜けたり、歯茎がうんだり、出血したりします。
(注2)フェブリン:血液の凝固に関わるタンパク質で、止血や血栓形成の中心的な役割を担っています。
(注3)インプラント:歯の無くなった部位に人工の歯根を埋め込む型の義歯です。

3.2 歯根膜幹細胞と骨芽細胞2層シートで歯周病治療を目指す 東京医科歯科大学3)

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科寄附講座ナノメディスン講座の岩崎剣吾講師らと、大日本印刷株式会社との共同研究で、光リソグラフィー技術をベースに、ガラス基板上の細胞を無細胞化した羊膜上に転写し、その細胞上に異なる種類の細胞を積層して培養し、マウス骨欠損モデルにおける欠損部に移植することにより、組織を迅速に再生する方法の開発に成功しました。

今回開発された方法によって、複数の細胞種が積層された生体に近い構造を持った細胞移植材料が作成できることになります。また、この方法で作成された細胞移植材料は、移植手術の際に起こる材料の変形などに耐え、さらに移植材料を引っ張ったり、折りたたんだり、トリミングしたりすることも可能ですので、細胞移植治療を簡単に、確実に行う事を可能にすることが期待されます。今後、血管内皮細胞と平滑筋細胞で血管再建や、歯根膜細胞と骨芽細胞で歯周病治療など、多くの再生医療への応用が期待されます。

3.3 白血病の新たな細胞治療 移植片対宿主病(GVHD)に有効な治療法4)、5)

「元気の出る再生医療:再生医療の最前線(3)」で、再生医療を支える企業の現状で紹介しましたJCRファーマ株式会社が開発した「テムセルHS注」は、2015年9月に日本初の他家由来の再生医療製品として製造販売承認を取得し、2016年2月販売されています。この製品は造血幹細胞移植後に発症する重篤な合併症である急性移植片対宿主病(GVHD)(注4)の治療に用いられます。この新たな治療法について、「NHKテキスト 今日の健康」4)を参考にご紹介します。

白血病の治療は、白血病細胞を減らすために抗がん剤を使います。複数の抗がん剤を組合わせた治療で、患者さんの約半数は治癒が期待されます。抗がん剤だけでは治療が難しいと予想される患者さんには、造血幹細胞移植が検討されます。造血幹細胞移植は、患者さんの造血幹細胞(注5)を提供者(ドナー)の正常な造血幹細胞と入れ替える治療です。治癒が期待できますが、感染症とGVHDという2つの合併症のリスクも生じます。感染症の場合、原因を特定して、適切な抗菌剤が投与されます。

GVHDが生じますと、ステロイドの点滴や内服による治療が行われ、約半数は抑えることができますが、残りの半数は抑えることができません。ステロイドが効かないGVHD(ステロイド抵抗性GVHD)に対して、今まで有効な治療法は確立していませんでした。しかし、JCRファーマ株式会社が間葉系幹細胞(注6)を使って開発した再生医療等製品「テムセルHS注」でステロイド抵抗性GVHDに対する治療が可能となりました。週2回の点滴を4週間にわたって8回行われます。日本で行われた治験には、15施設の重症のステロイド抵抗性GVHDの患者さんが参加され、25人中12人で寛解率(注7)は48%でした。従来の治療による寛解率が20%でした。

今後は治療を通してさらに有効性と安全性を検証していく必要があります。再生医療等製品の取り扱いには技術と経験が求められ、当面は限られた施設で治療が行われます。しかし、再生医療による治療が受けられることになったことは、GVHDで苦しむ患者さんにとり、朗報となります。

(注4)GVHDは、ドナーの造血幹細胞からつくられたリンパ球が、移植を受けた患者さんの体を攻撃する現象です。GVHDが生じますと、重症の場合、多くの臓器が機能しなくなり、命にも関わります。造血幹細胞移植を受けた患者さんの約1/3に治療が必要なGVHDが起こるとされています。日本では年間、およそ1200人の患者さんが発症していると考えられています。
(注5)造血幹細胞の採取:骨髄、体内をながれる末梢血、へその緒や胎盤に含まれるさい帯血から採取します。
(注6)間葉系幹細胞:軟骨や骨などに分化できる幹細胞で、造血幹細胞と同じように骨髄の中にあります。
(注7)寛解:GVHDによる臓器障害が消失すことです。

4.再生医療を支える企業の現状

4.1タカラバイオ 株式会社6)

幹細胞を用いた基礎研究や再生・細胞医療分野に向けた新製品開発を進めており、これまで遺伝子治療・細胞医療の研究開発で培った技術・ノウハウを活用し、遺伝子・細胞プロセッシングセンターを中核拠点としてバイオ医薬品や再生医療等製品などの製造・開発支援サービスの事業を拡大中です。タカラバイオ社はiPS細胞の作製に使う遺伝子や試薬の販売、iPS細胞の作製受託サービスを手掛けています。京都大学iPS細胞研究所にiPS作製に必要なDNAを提供し、共同研究をしています。同社は、自社開発のレトロネクチン拡大培養法および高純度NK細胞療法を用いて、がん免疫細胞療法の臨床研究やがん免疫細胞療法を実施する医療機関への技術支援サービスも展開しています。

4.2サンバイオ株式会社7),8)

2001年、米国サンフランシスコ・ベイエリアで創業し、創業以来一貫して再生細胞薬による脳の再生に取り組み、世界市場を見据えた事業展開を進めています。日本を中心とした経営体制に移行するとともに、2015年4月に東京証券取引所マザーズ市場に上場しました。再生細胞薬SB623は神経機能を再生する作用を持った治療薬で、慢性期脳梗塞を対象とした臨床試験フェーズ1/2を米国で実施、完了しています。SB623は神経機能の再生を促すことから、慢性期脳梗塞、外傷性脳損傷、網膜疾患、パーキンソン病、脊髄損傷、アルツハイマー病など多くの脳神経疾患への適用が期待されています。SB618は神経機能を再生する作用を持った治療薬です。SB623とは異なった特性を持っており、末梢神経障害、脊髄損傷について動物モデルでの効果が確認されています。末梢神経障害、脊髄損傷、多発性硬化症などを対象に開発が進められています。SB308は骨髄由来の筋肉幹細胞で、研究段階ですが、筋ジストロフィーなどの疾患への応用を視野に開発が進められています。

同社は、けがなどで脳の神経細胞が死んだり傷ついたりして体のまひなどが出た「外傷性脳損傷」の患者さんに対し、加工した幹細胞(再生細胞薬SB623)を用いて機能改善を試みる治験を、国内5カ所の医療機関で実施すると発表しました(2016年9月21日)。本試験では、外傷性脳損傷に起因する慢性期の運動障害をもつ患者さんを対象に、再生細胞薬SB623を用いた同社グループ独自の再生細胞薬の治療効果を評価する予定です。同社グループは、すでに米国において他家由来の再生細胞薬としては世界で初めてとなる外傷性脳損傷を対象としたフェーズ2臨床試験をグローバル治験として開始しています。日本においても治験を開始し、同グローバル試験に日本からの被験者を組み入れるとしています。(詳細は「元気が出る再生医療:再生医療の最前線(3)」)を参照ください。

4.結びに

再生医療の進展には、周辺産業の健全な発展が不可欠です。周辺産業は製造業も多くあり、その成長のためには、設備・機器、培養装置、機材・材料、試薬・培地、輸送などの分野で関連企業が連携し、品質試験の基準や国際標準化などの地道な活動も必要です。現在、再生医療の関連の200社近い企業が、再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)9)を組織し、国際的な視点で再生医療の産業化戦略、実現化を目標に活動されています。地道な活動と果敢な挑戦によって再生医療が着実に進展することにより、多くの患者さんが救われることを願っております。

参考文献および参考資料

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