NPO法人再生医療推進センター

第14回 元気の出る再生医療

末期乳がんの患者さん、養子免疫療法で完治(米国)


米国で一人の末期乳がん患者さんが、免疫系に働きかける試験的治療を受けることによって、乳がん細胞が完全に排除できたという報告が、医学誌Nature Medicineに掲載されました1)。末期の乳がんにT細胞免疫治療(がんに対する攻撃力が最も強い細胞のひとつであるT細胞(Tリンパ球)を活性化し、増殖させてから体内へ戻す治療法)を適用して成功したのは今回が初めてとされており、この治療法は、従来の様々な治療法が効かない末期がんの治療法につながる可能性が期待されています。

米国国立がん研究所(National Cancer Institute, National Institutes of Health)のSteven Rosenberg氏らの研究チームは、進行性の乳がんを患い、化学療法が効かずにがん細胞が他の臓器に転移していた患者さんに対し、免疫系に働きかける試験的治療を施すことによって、がんが完治したとの研究結果を、2018年6月4 日に発表しました2)。この患者さんは2年間にわたり、がんのない状態を維持しているとのことです。Steven Rosenberg氏らは標的となったがん細胞の特性を分子レベルで詳しく調べことによって、今回の手法が他の乳がん患者で有用かどうかを高い精度で予測できるようになったとし、研究チームは、この結果を末期乳がんに苦しむ患者さんの治療における「新たな免疫療法アプローチ」と説明しました。

当時 49 歳だった患者さんは、従来の治療が何度も失敗したことにより、今回の臨床試験に参加されました。同研究チームは、患者さんの腫瘍から取り出したリンパ球を調査し、がん細胞に反応するリンパ球の種類を特定しました。その後、この特定したリンパ球を研究室で再活性化し、別の種類のがんに対する治療で効果が示されている免疫治療薬「免疫チェックポイント阻害剤(がん細胞が免疫から逃れようと体内の免疫にブレーキをかけるのを防いで、体内に元々ある免疫細胞の活性化を持続するための薬剤)」と一緒に、再び患者さん体内に戻しました。

がんの免疫療法として臨床で最も効果が上がっているのは、免疫チェックポイントの阻害とT細胞の養子免疫療法(がんに対する免疫系の抵抗力を高める治療法)と言われています2)。免疫チェックポイントの阻害は、抗体を注射することによって患者の体内でT細胞を活性化します。T細胞の養子免疫療法は、患者さんの血液や腫瘍からT細胞を取出し、その腫瘍を認識するT細胞だけを培養してから患者の体内に戻します。これらの療法の有効性はがんの種類によって大きなばらつきがあるとされており、これまでに免疫チェックポイントの阻害を利用した乳がん治療の臨床試験が何回か行われていますが、効果がないことが判明しているそうです。

Laszlo Radvanyi(カナダ・オンタリオがん研究所)氏は、Nature Medicine誌の解説記事で、患者さんが治療に対し示した反応は、ここまで進行した乳がんとしては「前代未聞」だと指摘されています1)。

この革新的な発表に対しては、患者さんの数を増やした臨床研究での検証が求められるでしょうが、「患者さんに合わせた」がん治療を施すことによって、「がんの完治」に結び付いた事実は、優れた福音であり、不安を希望へと導く期待の高い素晴らしい成果でしょう。

(NPO法人 再生医療推進センター 守屋好文)

(参考文献)

  1. 1)Nikolaos Zacharakis, Steven A.Rosenberg,et al.: Immune recognition of somatic mutations leading to complete durable regression in metastatic breast cancer, Nature Medicine volume 24, pages724ー730 (2018)(https://www.natureasia.com/ja-jp/nm/pr-highlights/12537)
  2. AFP:末期乳がん、免疫療法で完治 世界初の試験結果発表、2018年6月5日(http://www.afpbb.com/articles/-/3177222)

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