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再生医療用語集
No.79 再生医療トッピクス

再生医療等安全性確保法の施行から5年
1)施行状況について

再生医療を国民が安全に迅速に受けられるようするために、再生医療等の安全性の確保等に関する法律と薬事法改正による製造販売に関する法律が2014年11月に施行されました。施行から5年を経て、当該法律の見直しが検討されています。これから数回にわたり、主に再生医療等安全性確保法について施行状況、施行5年の検討についてご紹介致します。


1.再生医療の普及に関する2つの法律施行

再生医療の研究開発から実用化までの施策を総合的な推進を図ることで、再生医療を国民に迅速かつ安全に受けられるようにするための2つの法律が2014年11月25日に施行されました。


第一は、再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)で、自由診療、臨床研究に関するものです。再生医療等の安全性の確保等を図るため、再生医療等の提供機関及び細胞培養加工施設についての基準を新たに設けるために法律です。その狙いの一つである迅速性は、細胞培養加工について、医療機関から企業への外部委託を可能にすることで図られます。安全性については、再生医療等のリスクに応じた三段階の提供基準と計画の届出等の手続、細胞培養加工施設の基準と許可等の手続を定めています。これにより、安全な再生医療が迅速かつ円滑に患者さんが受けられることを目指しています。


第二は、薬事法改正で、製造販売に関するものです。再生医療の実用化に対応できるよう、再生医療等製品の特性を踏まえた承認・許可制度を新設するための改正が行なわれました。迅速性では再生医療等製品の特性に応じた早期承認制度を導入しました。安全性では、患者さんへの説明と同意、使用の対象者に関する事項の記録・保存など市販後の安全対策を定めています。これにより、多くの製品を、より早く患者さんに届けることを目指しています。


2.再生医療等安全性確保法の概要

2.1 ねらい

再生医療等の迅速かつ安全な提供等を図るため、再生医療等を提供しようとする医療機関等が講ずべき措置を明らかにし、特定細胞加工物の製造の許可等の制度等を定めます。


2.2 再生医療との分類

再生医療等について、人の生命及び健康に与える影響の程度に応じて三段階に分類し、それぞれ必要な手続が定められています。この分類は、細胞や投与方法等を総合的に判断して、厚生科学審議会の意見を聴いて厚生労働省令で定められています。


・第一種再生医療等技術:人の生命及び健康に与えられる影響が明らかでない、または相当の注意をしても人の生命及び健康に重大な影響を与える恐れがあることから、その安全性の確保等に関する措置、その他のこの法律で定める措置を講ずることが必要なものとして厚生労働省令で定める再生医療等技術です。

具体的には、ES細胞(胚性幹細胞)、iPS細胞(人工多能性幹細胞)、iPS様細胞、細胞内蛋白導入、遺伝子治療・導入する操作を行った細胞、異種動物細胞、他家由来細胞等を利用する再生医療等技術です。


・第二種再生医療等技術:相当の注意をしても人の生命及び健康に影響を与える恐れがあることから、その安全性の確保等に関する措置、その他この法律で定める措置を講ずることが必要なものとして厚生労働省令で定める再生医療等技術です。

具体的には、神経幹細胞(神経細胞またはグリア細胞に分化)、間葉系幹細胞(骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞等に分化)といったヒト体性幹細胞(人の身体の中に存在する幹細胞で、限定した分化能を保有する細胞(最近は由来胚葉を横断した分化が可能とされている))を利用します。以下の場合が第二種再生医療等技術になります。

①体性幹細胞の培養を行う場合

②体性幹細胞の培養しない場合

・相同利用(採取した細胞が再生医療等を受ける患者さんの再生医療等の対象となる部位の細胞と同様の機能を持つ細胞の投与方法)ではない場合

③体性幹細胞を利用しない場合

・人の身体の構造または機能の再建、修復または形成を目的とし、培養を行う場合

・培養しなくても相同利用でない場合

④人の身体の構造または機能の再建、修復または形成を目的としない場合

・相同利用でない場合


・第三種再生医療等技術:第一種再生医療等技術及び第二種再生医療等技術以外の再生医療等技術です。以下の場合が第三種再生医療等技術になります。

①体性幹細胞を利用する場合

・培養を行わずに相同利用する場合

②体性幹細胞を利用しない場合

・人の身体の構造または機能の再建、修復または形成を目的とする場合であって、培養を行わずに相同利用する場合

・人の身体の構造または機能の再建、修復または形成を目的としない場合であって、相同利用する場合


2.3 再生医療等の提供に係る手続

・第一種再生医療等:医療機関が作成した提供計画に基づき、特定認定再生医療等委員会で審査を経た後に、厚生労働大臣に提出して実施することになります。90日間の実施制限期間を設け、その期間内に、厚生労働大臣が厚生科学審議会の意見を聴いて安全性等について確認します。安全性等の基準に適合していないときは、計画の変更を命令します。


・第二種再生医療等:提供計画に基づいて、特定認定再生医療等委員会で審査を経た後に、厚生労働大臣に提出して実施します。


・第三種再生医療等:提供計画について、認定再生医療等委員会で審査を経た後に、厚生労働大臣に提出して実施します。

ここで、認定再生医療等委員会とは、再生医療等技術や法律の専門家等の有識者からなる合議制の委員会で、一定の手続により厚生労働大臣の認定を受けたものであり、特定認定再生医療等委員会は、認定再生医療等委員会のうち、特に高度な審査能力、第三者性を有するものです。厚生労働大臣への提供計画の提出の手続を義務付けられています。提供計画を提出せずに再生医療等を提供した場合は、罰則が適用されます。第1種再生医療等、第2種再生医療等を提供する医療機関については、一定の施設・人員要件が課されています。


2.4 適正な提供のための措置等

・インフォームド・コンセント、個人情報保護のための措置等について定めています。

・疾病等の発生は、厚生労働大臣へ報告。厚生労働大臣は、厚生科学審議会の意見を聴いて、必要な措置をとらなければなりません。

・安全性確保等のため必要なときは、改善命令を実施します。改善命令違反の場合は再生医療等の提供を制限します。保健衛生上の危害の発生拡大防止のため必要なときは、再生医療等の提供の一時停止など応急措置を命令します。

・厚生労働大臣は、定期的に再生医療等の実施状況について把握し、その概要について公表します。


2.5 特定細胞加工物の製造の許可等

特定細胞加工物の製造を許可制(医療機関等の場合には届出)とし、医療機関が特定細胞加工物の製造を委託する場合には、許可等を受けた者又は届出をした者に委託しなければなりません。再生医療等安全性確保法が施行された2014年11月以降に、厚生労働大臣に申請のあった細胞培養加工施設1)は2020年1月時点で2827件(届出:2752件、許可:66件、認定(国外で製造を行う場合):9件)です。

なお、許可、認定及び届出については細胞培養加工施設ごとに必要です。


2.6 再生医療等安全性確保法の見直しについて

再生医療等安全性確保法附則第2条においては、施行後5年(2019年)以内に、規定に検討を加え、所要の措置を講ずることとされています。(施行日:2014年11月25日)。この検討状況について、次回以降にご紹介いたします。


2.7 再生医療等委員会の認定状況について

認定再生医療等委員会とは、再生医療等技術や法律の専門家等の有識者からなる合議制の委員会です。一定の手続により厚生労働大臣の認定を受けたものをいい、「特定認定再生医療等委員会」は、認定再生医療等委員会のうち、特に高度な審査能力、第三者性を有するものです。再生医療等安全性確保法が施行された2014年11月以降に、厚生労働大臣に申請があった認定再生医療等委員会2),3)は、2020年3月現在、154件(特定認定:61件、認定:92件)です。


2.8 提供機関に対する立入検査・行政処分の状況について

提供状況については、法律に基づいて年に一度の定期報告によって確認しています。 また、法律に基づいて厚生労働大臣は、

・保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため必要があるときには再生医療の提供の一時停止(緊急命令)を命じることができます

・再生医療等技術の安全性の確保のため必要があるとき等には提供機関等に立ち入ること(立入検査)、必要な報告をさせること(報告命令)、必要な措置をとるべきこと(改善命令)を命ずることができます。


2017年度は臍帯血事案の発生に伴い全国で12件の緊急命令を発出、2019年度に入り、立入検査等の対応件数は増加傾向にあります。法第二十二条または第二十三条の規定による命令をした場合にあっては、その医療機関名と命令の内容を「届出された再生医療等提供計画一覧4)」で確認することができます。


美容やがんの治療などを訴求した再生医療に関して、厚生労働省が事前審査の実態調査を始めたと報じられました5)。審査時の説明と実際の治療が異なる例などが相次いでおり、専門家による「審査の質」にばらつきがあると指摘されていました。厚生労働省によりますと、2018年度に報告された治療の実施件数は3,870件でしたが、第三種再生医療等が94%を占めるとされています。医療機関は再生医療を提供する場合、上記のように安全性確保法に基づいて認定委員会、もしくは特定認定員会(以降、認定委員会等と記す)で予め審査を受ける必要があります。審査の費用は認定委員会等ごとに異なりますが、第三種再生医療等は1件あたりの費用は数十万円程度です。医療機関はどの認定委員会等でも審査を受けることができます。


第一種再生医療等のリスクの高い再生医療以外は、認定委員会等が認めれば国に計画を提出することにより実施できます。しかし、一部の医療機関では事前の審査内容と異なる治療をしていた例が数件ありました。厚生労働省は、各委員会すべてを対象に、審査や認可の件数、委員や事務局への研修の実施状況、決定時に委員の間で判断がわかれる例があったか、などについて調べるとしています。


(参考資料)

  1. 厚生労働省ウエブサイト:再生医療等安全性確保法の施行状況について(令和2年1月31日)
  2. 厚生労働省ウエブサイト:再生医療等安全性確保法第26条第4項の規定により認定された認定再生医療等委員会の一覧(特定認定)
  3. 厚生労働省ウエブサイト:再生医療等安全性確保法第26条第4項の規定により認定された認定再生医療等委員会の一覧(認定)
  4. 厚生労働省ウエブサイト:再生医療等提供機関一覧
  5. 朝日新聞DIGITLA:再生医療「審査の質」調査 説明と違う治療、問題視 厚労省、2020年1月20日

(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)