NPO法人再生医療推進センター

NPO法人再生医療推進センター主催報告会

(2018年8月5日 ホテル グランビア 京都)


T. 再生医療のあけぼの ー日本の再生医療の成立ち 現状と今後ー

NPO法人再生医療推進センター 理事長 井上一知

2000年に私は細胞療法研究会の会長を仰せつかりました。再生医療は21世紀における重要な医療になるとの思いに至り、当時、細胞療法研究会の世話人を長い間勤めておられた東海大学の辻公美先生を始め多くのメンバーの方々と相談した上でご賛同をいただき、細胞療法研究会を発展的に解消させていただきました。そして、国内の再生医療研究の専門家の多くの方々と協議の結果、2001年に日本再生医療学会とNPO法人再生医療推進センター(以下、当センター)を同時に設立させていただきました。当初は、再生医療という言葉はもとより、英語圏でも適切な表現はありませんでした。Regenerative Medicineは私たちが造った和製英語でしたが、今や世界中で使用されています。当時、再生医療の定義すらなかった時代でしたが、再生医療の定義として組織や臓器を創って治療に供するだけでなく、細胞の機能再生をめざす医療や細胞を活用する医療を幅広く含めようということになりました。

当センターは日本再生医療学会と情報交換を行い、相互の発展をめざしつつ、再生医療の進歩・発展及びその実用化に寄与する目的で設立いたしました。すなわち日本再生医療学会は再生医療研究の発展に寄与するために、当センターは再生医療の多くの患者さまや一般市民の方々への啓発活動のために同時設立いたしました。日本再生医療学会は、当初私たちの教室(京都大学再生医科学研究所)に事務局をおいて活動を開始しましたが、当時の学会の会則には当センターとの協力関係及び役割分担が明記されていました。本日、司会を担当しておられます角先生は当時の日本再生医療学会の事務局を担当しておられました。角先生は現在、京都大学准教授そして再生医療研究専門家としてのご活躍はもちろんのこと、当センター理事としてもホームページの再生医療相談室で多くの患者さまからのご質問に懇切丁寧に答えていくというボランティア活動に専念しておれます。

2002年、京都国際会議場にて私が初代会長として第1回日本再生医療学会総会を主催させていただきました。医学、工学、薬学、理学、農学そして一般市民の方々など2,000人が参加され、70名以上参加された報道関係者の方々にも学会前後にわたり、再生医療について連日報道していただきました。お陰様で再生医療の認知度が一挙に高まり、国にも再生医療を将来的に21世紀の医療を担う重要な医療分野と認めていただき、多くの研究費を出していただけるようになりました。再生医療、すなわちRegenerative Medicineには日本から世界に発信し得る21世紀における画期的医療という大きな期待が込められていたのです。これが「第一のあけぼの」でした。当時はES細胞が話題となり、研究分野でも大きな注目を帯びていました。体性幹細胞(骨髄、脂肪幹細胞など)では骨髄幹細胞の研究が先行していました。2004年頃には骨髄幹細胞を用いた閉塞性動脈硬化症に対する治療がすでに保険適用を受けていましたし、骨髄幹細胞による脳梗塞に対する治療研究も始まっていました。

2012年に京都大学の山中教授がiPS細胞の作製に関する研究でノーベル医学・生理学賞を受賞され、再び再生医療は注目を集めました。その後、再生医療研究の主体はES細胞からiPS細胞に移り、先駆的な研究が積極的に進められてきました。iPS細胞は期待度の高い重要な研究テーマではありますが、現実的には経費、費やす所用時間・労力、さらには腫瘍化の除去問題等クリアーする課題も多く、治療の実用化には至っていません。一方、体性幹細胞に関しましては前述の如く2004年頃にはすでに治療として実用化されている分野があり、その後も着実な進展をみせてきました。最近では安全性、低侵襲性、簡便性、拒絶反応などに優位性がある脂肪幹細胞を用いた臨床研究、特に治療が急速に進展しているのが実情です。

現状では、再生医療の研究・治療を実施する場合、特定認定再生医療等委員会(厚生労働省認可)の審議を経て、厚生労働大臣に提供計画を届け出る必要があります(再生医療等の安全性確報に関する法律(2014年11月))。2018年8月5日の時点で、同省が公開している研究・治療提供計画は、iPS細胞は加齢黄斑変性に関する研究が1件であり、治療は0件です。ES細胞は研究・治療共にありません。一方、脂肪幹細胞は、研究で19件、治療で74件と驚くべき速さで進展しています。この発展を支えているのは、高い安全性と有効性です。今や、脂肪幹細胞による治療は、一般のクリニックでも、特定認定医療等委員会の承認を経て、厚生労働省への研究・治療計画を届出て受理されれば提供ができます。

今日の講演会における脂肪幹細胞の静脈点滴のよる筋委縮性側索硬化症(ALS)と慢性閉塞性肺疾患(COPD)の症状の改善が広く日本中に周知されますと、これら難治性疾患に関する治療の急速な進展と多くの患者さんに対する希望へと繋がります。

今後、再生医療の研究・治療に対する客観的評価をしながら、間葉系幹細胞、iPS細胞、ES細胞それぞれの研究・治療開発を公平に応援して所存です。難治性疾患に対する画期的な治療法を待ち望んでおられる患者さん、一般市民の方々に対する公平・公正な情報発信に努めてまいります。安全、簡便、侵襲が軽微、拒絶反応の心配が無い脂肪幹細胞による再生医療が、有効な治療法が全く無い難病に効いたということはまさしく画期的であり、難病に苦しんでおられる多くの患者さまに対する福音になり得るとの大きな期待を抱かせるものであります。脂肪幹細胞などの間葉系幹細胞による新たな再生医療の取組が進展していく中で、18年ぶりの「再生医療の第二のあけぼの」が到来したと感じており、この状況を広く世界の人々に発信してまいります。

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U. 患者さん・一般市民の視点から見た再生医療

NPO法人再生医療推進センター 理事  大熊藍子

患者さんの視点でお話をさせていただきます。脂肪幹細胞が難治性疾患に安全に簡便に実施され、症状の改善が認められた事実に本当に驚きました。私にとりまして、iPS細胞と再生医療は同義語であり、脂肪幹細胞による治療はほとんど知りませんでした。ALS,COPDなどの難治性疾患は根治できる治療法がなく、患者さんに今日の講演会の症状改善の情報をお届けできますと、必ずや希望を持たれることでしょう。当センターのホームページの再生医療相談室には、患者さんのご家族から病の治療に対する切実な訴えが寄せられ、一日も早い治療法の確立が求められています。症状が少しでも改善されるならば、生活の質は向上します。

井上理事長と17年前に当センターを立ちげた際には、再生医療に対してお医者様でもES細胞、幹細胞に対して懐疑的でした。iPS細胞によるノーベル賞受賞は、再生医学の認知度を高めてくれました。現在、脂肪幹細胞がiPS細胞よりも多くの研究・治療が実施されていることを知り、本当に驚きました。

長寿大国は誠に喜ばしいことですが、一方でアルツハイマ―型認知症患者さんは2025年に700万人となるとの推計があります。ご家族にとって、国としても深刻な課題となることは想像に難くありません。アルツハイマー型認知症などの難治性疾患には根治できる治療がない中、少しでも症状が改善される治療は救いとなります。なぜならば、生活の質が上がるからです。安全性が高く、有効性が期待できる治療法であるならば、早く取組まれ、患者さん、ご家族の福音となることを切望しております。

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V. 自己脂肪組織由来幹細胞によるALS・COPDに対する治療効果およびアルツ ハイマー型認知症、パーキンソン病への取組

京都府立医科大学 名誉教授・元学長  山岸久一

1.自己脂肪組織由来幹細胞によるALS・COPDに対する治療効果

脂肪幹細胞による筋委縮性側索硬化症(ALS)と慢性閉塞性肺疾患(COPD)に対する臨床研究は、再生医療推進センターが推進母体となり、2016年7月に開始しました。幹細胞にはES細胞、iPS細胞、体性幹細胞がありますが、本臨床研究では両疾患に対する高い安全性と有効性を鑑みて、体性幹細胞(骨髄・脂肪など)の中でも脂肪幹細胞に絞り込みました。
脂肪幹細胞に絞り込んだ根拠は、局部麻酔で採取でき、幹細胞の取得数も多く、様々な細胞に分化する多分化能に優れていて、高齢者でも一定の細胞数が得られることにあります。左中大脳動脈虚血モデルマウスでは、脂肪幹細胞治療群において梗塞部位の縮小が骨髄幹細胞群に比較し、顕著であったとする報告があります。また、脊髄損傷のマウスに脂肪幹細胞を静脈に投与した研究で、脂肪幹細胞は脾臓に40%、胸腺に21%、脊髄に13%、脳に9%が生着したというホーミング効果に関する報告があり、ヒトにおいても脂肪幹細胞は静脈点滴で損傷部位に集まることが期待できます。
臨床研究に使用した脂肪幹細胞は、患者さんから採取した皮下脂肪から脂肪幹細胞を分離し、無血清で培養した高品質な点が大きな特徴です。この高品質の分離・培養は世界でも卓越した技術を有するタカラバイオ鰍ノ担当していただきました。同社は幹細胞を用いた基礎研究や再生・細胞医療分野に向けた新製品開発に優れた実績を挙げておられます。

1)筋委縮性側索硬化症(ALS)の治療効果について
ALSは運動する筋肉を支配する神経(運動ニューロン)が侵される病気です。根治を期待できる治療はありません。症状は、@上肢麻痺(指先や手の筋委縮で発症)、A下肢麻痺(歩行時のつっぱり感)、B球麻痺(顔、舌、のどの麻痺、筋委縮)などです。脂肪幹細胞を5人の患者さんに2ヶ月に一度づつ30分かけて、3回に分けて静脈点滴で投与しました。

その結果、2人の患者さんにおいて次の症状の改善が見られました。

    Aさん:
  • 便秘⇒便秘がすっきり出る(第1回投与後1週間後より改善)
  • 疲れやすい⇒疲れづらくなった
  • 歩行時の下肢硬直、横揺れ⇒下肢硬直感が減少、階段下降時の硬直感低下
  • 食事中、よくむせる⇒むせての咳が減少、日中の咳が減少
  • 長時間話せない⇒会話が長く続く、会話を聞き取りやすい
  • 電話での会話が理解しやすくなった
  • 舌が動かしづらい⇒舌が動かしやすくなった
  • 夜間無呼吸(舌根沈下)⇒(3ヶ月後)睡眠中の無呼吸、いびきが無くなった
  • その他⇒長文の読みが、長時間可能になった、食欲の亢進
  • 3ヶ月後には上記項目はさらに改善しました。髪が多く、黒くなりました
  • 握力が右:50⇒52 左:35⇒41
  • 筋電図上、神経伝導不全所見の改善が得られました。
    Bさん:
  • 2013年7月 ALSの診断 2015年8月 歩行困難 首垂れで坐位困難
  • 2015年12月 胃瘻造設 2016年5月 呼吸不全の為、気管切開
  • 2017年4月 気管喉頭分離術
  • 2017年9月 脂肪幹細胞静脈点滴投与開始
  • 投与前寝たきり⇒2回目投与から車椅子での外出可能、体重増加
  • ビール、ワイン少量飲まれる

2)慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療効果について
COPDはたばこ煙を主とする有害物質を長期に吸入暴露することで生じた肺の炎症性疾患で、対症療法しかありません。症状は歩行時や階段昇降時などの身体を動かした時に息切れを感じる労作時呼吸困難や慢性の咳やたんが出ることなどです。

脂肪幹細胞を5人の患者さんに2ヶ月に一度づつ30分かけて、3回に分けて静脈点滴で投与しました。5人中3人の患者さんに症状の改善が確認されました。

・Cさん(72歳男性):動作後のしんどさが軽減された/歩行距離が長くなった
・Dさん(81歳男性):歩行距離が長くなった/酸素ボンベが不要になった
・Eさん(86歳男性):歩行後の呼吸苦軽減/下腿のアミロイド色素減少

アミロイド色素減少の要因としては、アミロイド蛋白分解酵素が存在した可能性が挙げられます。タカラバイオ鰍ノよる分析では全ての患者さんの細胞においてネプリライシンの発現が確認できました。

報道関係者との質疑応答

(各質問に対しましては当NPO法人理事長、各理事、タカラバイオ担当者が対応致しました)

・寝たきりだったALSの患者さんが車椅子に乗っておられる写真がありましたが、時期はいつ頃ですか?

投与後3ヶ月経過した時です。

・ALSの患者さんで5人中2人の方は症状が改善したそうですが、残りの3人の方々はどうでしたか?それとプロトコルについて教えてください。

安全性に問題はなかったですが、症状の改善は見られませんでした。プロトコルは2ヶ月1度毎に、3回で、1回30分の静脈点滴で5,000〜7,000万個の脂肪幹細胞を投与しています。3人の患者さんに改善が見られなかったことを踏まえ、投与方法については検討の必要があると考えております。

・安全性で血管が詰まる等の問題はありませんでしたか?

ありませんでした。適正に分離、培養された脂肪幹細胞は安全性が高いです。

・COPDでも同じプロトコルですか?

同じです。

・COPDでは2人の患者に改善が見られませんでしたが状況はいかがでしたか?

一人の患者さんに症状の改善は見られませんでした。もう一人の患者さんは、肺炎を併発されていました。幹細胞投与と肺炎の関係はありません。

・臨床研究での費用はどうなっているのでしょうか。治療ならば、自由診療でしょうけれども

費用は発生しません。

・改めてES細胞やiPS細胞でなく、脂肪幹細胞を使うメリットを教えてください。

患者さん自身の脂肪幹細胞を使うので安全性が高いことです。有効性では梗塞部位の縮小が骨髄幹細胞よりもすぐれていたことから類推できます。

・脳に関連した疾患にも脂肪幹細胞を利用していくのですか?

静脈点滴で投与した脂肪幹細胞がホーミング効果等で脳の損傷部位に到達する可能性があるからです。

・ALSの患者さんの症状の改善の判断はどうのようにして行われましたか?

主治医とご家族からの申告です。臨床研究が完結する時には、主治医に問診等による数値的評価が出る予定です。

・安全性の確認ですが、ホーミングで別のところにいきませんか?

ホーミングは損傷部位化からシグナルを受けて幹細胞が損傷部位に移動するとされています。損傷部位以外には到達しないと考えられます。

・MRI等の画像診断装置による改善評価はされなかったのですか?

寝たきりの患者さんの場合、診断装置を用いることは困難でした。今後予定しているアルツハイマー型認知症の臨床研究ではPET等を活用していきたいと考えています。

2.アルツハイマー型認知症、パーキンソン病への取組

アルツハイマ―型認知症(AD)、パーキンソン病(PD)への脂肪幹細胞の静脈点滴による臨床研究の計画を説明します。臨床研究へのきっかけは、さきほどご説明しましたALSとCOPDの臨床研究による症状の改善による有効性と高い安全性への確信です。

先ず、ADについて臨床研究の有効性です。ADの病理学的な定義は、アミロイドβペプチド(Aβ)の脳内蓄積です。このAβの分解を促すことは、AD症状の改善の要因の一つとなります。前述しましたCOPDの患者さんで下腿のアミロイド色素の減少は、ネプリライシン(CD10)というアミロイド蛋白分解酵素によるものであると判断しましたが、「ヒト脂肪幹細胞由来間葉系幹細胞によるアルツハイマー病治療の可能性に関する研究(9th SSCR 2011年)」では、ネプリライシンが脳にあるアミロイドβ分解酵素で旨、報告されています。これらの事実から脂肪幹細胞によってネプリライシンが発現し、Aβの分解を促すことが期待できます。

続いてPDについての有効性の根拠です(重松理事より説明)。脂肪幹細胞によるαシヌクレインの抑制、抗炎症効果、数種類の栄養因子の放出、血管新生などの働きでパーキンソン病の症状改善が期待されます。iPS細胞、ES細胞ではドパミンを産生する神経細胞にして脳に手術で移植する必要があります。しかもドパミンを産生する中脳黒質は脳奥にあり、直接移植できずに、近くに移植することになります。脂肪幹細胞の場合は、静脈点滴でホーミング効果で脳の損傷部位に送ることができます。
なお、自己脂肪由来幹細胞によるAD、PDに対する臨床研究は、本日午前中の特定認定再生医療等委員会の審議で承認されましたので、厚生労働大臣に研究計画を届出て、受理された後に、開始する予定です。

AD、PD共に患者さんは3人です。プロトコルは、無血清培養した脂肪幹細胞を3回までは毎月、その後は2ヶ月毎に2回、静脈点滴で投与します。

報道関係者との質疑応答

(各質問に対しましては当NPO法人理事長、各理事、タカラバイオ担当者が対応致しました)

・臨床研究はいつ開始ですか?静脈点滴ですか?

厚生労働省に受理され次第、開始します。無血清培養した幹細胞5,000〜9,000万個を投与する予定です。

・3例の臨床で統計的に十分ですか? 

治験と異なり、治療前のパイロット臨床研究であり、治療前と後の改善度を比較するところにあります。

・特定認定再生医療等員会の承認を得ましたか? 

承認を受けました。実施は3例/3例の計画です。

・第2種は150例近い治療がありますが、新規性はありますか? 

難治性の治療はほんとんどありません。PDは初めてです。ADは1例ありますが、培養に生物由来血清を使用されています。

・安全性について教えてください 

稀に麻酔によるショック、投与後はアナフラキシーが生じる恐れがあります。熱が出たり、肺の梗塞にも注意が必要です。

・3例/3例は選定されていますか? 

検討しました選定条件に基づいて選定する予定です。症状は初期乃至は軽度です。

最後、山岸先生より、本臨床試験に参加したALSの患者さんの奥様からの書簡が読み上げられました。

治療によって、生活の質が上がりました。寝たきりだった生活から車椅子で外出ができるまでになり、今では毎日少量のワインと食事を楽しんでおります。辛いといった日々から今ではささやかな楽しみを味わっております。進行を止め、改善を維持していくために引き続き治療をしていただけることを願っております。

なお、当NP0法人からは、井上理事長、大熊理事、重松理事、饗庭理事、篠原理事、守屋理事が参加致しました。

(NPO法人再生医療推進センター 守屋)

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