NPO法人再生医療推進センター

コラム 鵜の目鷹の目


No.006 「AIとディープラーニングと脳」(4)脳神経の再生

脳神経細胞は本当に再生しないのでしょうか?「再生する」という論文が世界的に有名な雑誌に毎年の様に載っているのは、そう簡単に「再生していない」傍証とも言えますね。「成人の脳神経細胞は再生しない」が通説です。幾つか理由をあげます。@ 細胞分裂の時には遺伝子(DNA)が複製されます。これが成人の脳神経細胞では認められません。A DNA複製時に僅かながらも少し変化が生じます。これも観察されていません。B 成人の脳神経細胞は“癌”になりません。分化しきっているからです。悪性の脳腫瘍(癌)はありますが、成人の脳神経細胞由来ではありません(脳を作っている細胞にグリアがあることをお話しましたが、このグリア細胞は癌化することがあります)。

一方、仮に再生しないのであれば、神経細胞の寿命は80年を超えることになりますね。これは驚異的なことです。まだ未知の“再生”の仕組みがある様に思えてなりません。

「末梢神経は再生する」と書きました。例えば指を切っても繋がるのですから再生していることが分かります。神経の腕が離れ離れになったとしても「通路」(例えば管)を作るとその通路を通って神経の腕(軸索)が伸びて行き、やはり繋がります。

でも、考えてみれば、末梢神経と言うのは中枢神経の腕(軸索)でした。つまり、中枢神経も“再生”します。実際、脳神経細胞をシャーレで育てると腕を伸ばして行きます。つまり「再生能力はある」のですね。ところが「脳という場所」ではこの腕を伸ばすことが出来ません。脊髄損傷は残念ながら現在は治すことが出来ていません。脳の中に寒天の様な空間を作ればそこに腕を伸ばして行きます。ところがその腕は再び脳に入ることが出来ません。

何か、脳の“環境”が再生を阻止しているようです。脳は謂わば緻密な集積回路ですから「混線を避け」ているのかも知れません。グリア細胞には3種類ありますが、この内、乏突起グリア(オリゴデンドロサイト)が混線を、しいては再生を阻止しているという説が有力です。このグリアを抗体や放射線で除くと再生が生じ脊損のマウスが再び走れるようになった研究がネイチャーに掲載された時世界中の研究者がこれで“治る”様になると感激しました。大変残念なことに、それから20年経った今もこの夢は実現していません。この研究はじめ再生に成功したという報告はどれ一つとして追試(同じ実験をして確かめること)出来ていないのが現状です。真の再生医療が期待されます。

(Neuron)


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