No.008 コラム鵜の目鷹の目

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AIとディープラーニングと脳(6)「脳神経細胞間の情報伝達」

今お話ししているのは、筋肉を動かす「錘体路系」についてです。この系では第一ランナー(上位ニューロン)、第二ランナー(下位ニューロン)の2つの神経細胞が信号を伝えています。神経細胞特にその軸索での信号伝達についてお話しました。今回は、上位ニューロンから下位ニューロンへの情報のバトンタッチを見てみましょう。

場所はかの有名な「シナプス」。ゴルジ先生が神経細胞を顕微鏡で観察できるように“染色法”を考案しました。その方法を使って、シナプスの存在を主張されたのがカハール先生。100年余り前のこと(随分前の様でもあり、つい最近の様でもあり)。ゴルジ先生は神経細胞がネットワークで繋がっている(ネットワーク仮説)と報告しました。でも、ネットワークで繋がっている回路に電流が流れたら何処までも信号が送られていきますよね。カハール先生は、ニューロンとニューロンの間に僅かな隙間があってそこで、信号をコントロールしているのだろうと考えました(ニューロン仮説)。答えは「僅かな隙間」がありました。何と0.02mm程の隙間です。粋だと思うのは、この二人に第2回ノーベル医学生理学賞が同時に送られたことです。お2人は全く違う立場で受賞講演をされました。

さて、このシナプスで電気信号が、「神経伝達物質」と呼ばれる“バトン”に変えられ、それを下位ニューロンが受け取って無事信号が伝わって行きます。この神経伝達物質は小さな顆粒から放出され下位ニューロンの「ミット」(受容体)で受け取られます。神経伝達物質にはアセチルコリン、グルタミンなど幾つもあることが分かっています。受容体毎に受け取る物質が決まっているのである程度ノイズを制限できますね。神経伝達物質が減る病気があります。補うのは理にかなった治療ですけれど、そもそもこれは「信号」ですから、丁度良い量、もっと正確に言えば、適切な「時」に適切な「量」が受け取られなければいけませんね。生命は、この繊細な調節を続けています。

放出された神経伝達物質がずっととどまっていれば信号が出続けることにもなりかねません。速やかに分解されたり、元の上位ニューロンに戻って再利用されたりします。

いよいよ脳から出た信号が上位ニューロンから下位ニューロンを経て目的地である筋肉まで伝えられようとしています。次回は神経から筋肉への情報伝達についてお話しましょう。

(neuron)