NPO法人再生医療推進センター

再生医療相談室 回答ページ No.283


専門分野: 皮膚・毛髪

Q: 皮膚や毛髪などの再生医療についての質問です

 質問なのですが、皮膚や毛髪などの再生医療にはよく自分の細胞を培養して増やし、それを自家移植するという方法が用いられると聞きました。
この培養というのは一般的にどういう現象なのでしょうか?
培養細胞はもとの細胞と違うのでしょうか?もし違うのであれば遺伝子、寿命、働きなどはどのていど違うものなのでしょうか?その場合、移植した際の安全性は確保はできるのですか?
また、培養細胞はもとの細胞のクローンということになるのでしょうか?
抽象的な質問で申し訳ありませんが、よろしくお願いします。

掲載日: 2006.10.28

A:

 幾つかの質問が複合しいているようですので、それぞれに回答を試みます。
まず、「皮膚や毛髪などの再生医療」とありますが、現在のところ、皮膚の再生医療にはご質問のような自家培養細胞を利用した方法がありますが、毛髪を作る毛根はかなり複雑な構造をしており、これを確実に再生する方法は開発されていないと思います。
「培養というのは一般的にどういう現象なのでしょうか?」というお尋ねですが、培養は単細胞生物(細菌など)や体の細胞などを人工的な環境の下で生存させ、細胞分裂によって増殖させる人為的な操作ですので、自然に起きる「現象」ではありません。
「培養細胞はもとの細胞と違うのでしょうか?」というお尋ねですが、培養にもいろいろな場合がありますので単純には回答できません。ご質問にある皮膚の場合、表皮を取ってきて培養すると、表皮を作っている細胞の中でも活発に増殖している細胞(表皮の幹細胞)が増殖します。増殖した細胞は元の細胞の遺伝子をそのまま受け継いでいます。その意味では、培養細胞はもとの細胞のクローンです。「細胞の寿命」というのもなかなか難しい話ですが、この先何回分裂できるかということであるとすれば、一般的なガン細胞は無限に増殖できるので、いくら培養しても歳をとりません。実際、何十年も前に作られた子宮癌の培養細胞が、現在も研究に使われています。一方、体を作る正常な細胞は分裂できる回数に制限がある場合が多く、無限には増殖できませんので、培養中に分裂した回数だけ寿命が短くなるものと考えられます。「細胞の働き」は、培養する条件を操作する(各種の薬剤や成長因子などを作用させる)ことで意図的に変化させることが可能な場合がありますが、逆に、できるだけ変化しないような培養条件を設定することも可能です。
培養細胞を「移植した際の安全性」は再生医療で最も重要な課題の一つで、主なものとしては、感染症とガン化の問題があります。感染症を防ぐには、培養を非常に清潔な環境で培養を行って、雑菌が混じるこのとがないようにするのが第一です。自己の細胞を培養している場合には、輸血や血液製剤で問題となる他人の病気をうつされる危険性はありませんが、培養液にウシなど他の動物から取り出した物質(代表的には細胞の増殖を促進するために加えるウシ胎児血清)が入っていると、プリオン病などがうつる可能性を完全には否定できません。この点は、自己の血清を用いることで安全になります。一方、培養細胞のガン化はなかなか難しい問題です。明らかにガン化して無制限に増殖するような細胞は、顕微鏡で正常細胞と区別できますので、移植の前にチェックすることは可能です。しかし、元々ガンに冒されていない体から取り出した細胞を培養した場合、その過程でガン化する危険性がどの程度あるかは、現時点では、元の細胞の種類や培養条件ごとに事前に十分な検討を行ってみる以外にはないように思われます。
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