専門分野: 脳・神経・脊髄
Q: 幹細胞移植について
パーキンソン病など脳の疾患に、ES細胞などの幹細胞を移植すると人格変性が起こる場合があるのでしょうか
掲載日: 2007.5.30
A:
いろいろな脳疾患に各種の細胞を移植した場合にどうなるかというような一般的なご質問なので、全体をカバーするような回答は困難です。また、「人格変性」という言葉にもなかなか難しいものがありますが、パーキンソン病に対する細胞移植療法を考えるのであれば、やや具体的な(あまり哲学的でない)回答が可能と思われます。 ES細胞に由来する細胞を用いたパーキンソン病の治療は、サルの実験で有効性が確立されつつあり、比較的近い将来の臨床応用が期待されていますが、有効性と安全性の両面でもう少し前臨床研究を進める必要があると思われます。一方、ヒト胎児の脳の細胞を移植する治療法はすでに臨床研究されており、その結果はいくつかの論文で報告されています。このような報告によると、細胞移植の副作用として、精神的混乱や幻覚、抑鬱傾向、不眠というような精神的な症状が出る場合があるようです。従って、細胞移植が精神的な機能に何も影響を与えないとは言えません。しかし、「人格変性」というような高度な脳機能への悪影響(ここでは、感情の不安定性、攻撃性、幼稚性、羞恥心の欠如などという性格的な変化を念頭においています)が出る可能性は少ないものと思われます。なお、この治療法は、効果を得るためには比較的多数のドナーが必要との結果があり、また、ヒト胎児をドナーとすることの倫理的問題も関係して、現段階では必ずしも推奨される治療法として受け入れられている訳ではありません。 一方で、パーキンソン病の患者さんは抑鬱症状や不眠を訴えられる場合が多いことを考えると、有効な細胞移植治療によってこのような精神症状が良い方向に変化する可能性は十分あると思われます。
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