専門分野: 心臓・血管
Q: 小児の拡張型心筋症について
6歳の娘が心雑音で近隣の小児科を紹介され受診。拡張型心筋症と診断されました。続いて榊原記念クリニックを紹介され先日受診し、同病名と診断されました。全体的な心筋が弱くなっている事と左心室?後方が大人の心臓と同じくらい拡張し、更に心筋が弱っているとの診断です。 現在、運動制限と降圧剤、利尿剤、抗血栓の3種類の投薬を開始しました。 娘は出産時に本人の臍帯血を保存しております。 本人の骨髄液よりも臍帯血の方が心筋の幹細胞があるのではないかと素人的に考えておりますがいかがでしょうか? また、国内では心筋の再生医療を研究しているチームが少ないように感じます。研究しているチーム(国内外含め)教えて頂ければ、今後そのチームの動向をチェックしていきたいと考えております。 あまり考えたくないのですが、拡張型心筋症は最終的に心臓移植しか方法がないと言われていますが、一生免疫抑制薬やウィルスとの戦いを考える人生より、自分の細胞からの再生医療の方が本人にとってもよいと思うので、よきアドバイスをよろしくお願い申し上げます。
掲載日: 2007.12.12
A:
6才の娘さんが拡張型心筋症で内科治療を受けておられるとのこと、現在の症状や受けておられる治療もさることながら、今後の経過や治療法についてより大きな心配をしておられるものと存じます。 まず、心筋症に対する内科的治療の成績は、近年、明らかに向上してきていますので、十分な内科的治療を受けられることをお勧め致します。 もし、万が一、内科的治療のみでは十分に対応できない状況に立ち至った場合でも、大きな手術ではありますが、心室形成術というような方法もありますので、必ずしも心臓移植しか道がないという訳ではありません。外科的治療(あるいは、幹細胞治療でもそうだと思いますが)を考慮されるタイミングについて特に参考になる回答だと思います。 さて、心筋症に対する幹細胞治療についてですが、現在のところ、間葉系幹細胞を用いる試みを中心に検討されています。比較的単純な方法としては、間葉系幹細胞を体外で殖やして直接心臓に移植することで血管新生や心筋への分化を期待する方法や、より込み入った方法として、間葉系幹細胞から心筋細胞を誘導し、それを、直接、あるいは、特殊な培養法で心筋シートの形にして移植する試みが検討されています。 ここで用いられる間葉系幹細胞は、骨髄や脂肪組織など体の多くの組織の他に、臍帯血さらには月経血(これに含まれる子宮粘膜上皮に由来するものと考えられています)などからも得ることができます。臍帯血から分離した間葉系幹細胞は、特別な処置を行わなくても心筋に存在するタンパク質の一部を賛成するようになるとの最近の報告があります。但し、原因は分かりませんが、全ての臍帯血からこのような細胞が分離できるとは限らないようです。一方、月経血から分離したものは、心筋に分化する効率が良いとも言われています。このように、間葉系幹細胞は色々な所から得られますが、分離できる確率や、その後の増殖能などにはそれぞれ違いがあり、実際にどれを用いるのが最適かは、それぞれの治療法を十分に検討した上で決まってくるものと思われます。間葉系幹細胞については、骨、軟骨など多様な組織を再生する手段として盛んに研究されていますので、今後、新しい成果が次々に発表されるものと思います。 ただ、一つの懸念としては、遺伝子に原因がある心筋症の場合、同じ遺伝子異常を持っている自己細胞による治療が有効かどうか(臍帯血も含めて体を作っている全ての細胞は受精卵を源とする同じ遺伝子を受け継いでいます)、が問題になるかも知れません。このような治療法の適応については、それぞれの患者さんごとに、十分検討した上で決める必要があると思います。 このような治療法を検討している国内の医療機関としては、国立循環器病センターで間葉系幹細胞の移植が2004年から実施されているほか、月経血の利用や心筋細胞への分化については慶応大学の三好俊一郎先生、成育医療センターの梅沢明弘先生などが研究されています。
|