専門分野: 脳・神経・脊髄
Q: 代償性発汗の治療
No.311の質問と重複するのですが、ETS手術行なって「代償性発汗」に悩んでいます。神経は欠損部分が3cmを超えていなければ結合できると聞いたことがあるのでが、事実であれば代償性発汗の治療には当てはまらないのでしょうか?
掲載日: 2008.3.30
A:
ETS後の代償性発汗でお悩みとのこと、お見舞い申しあげます。さて、「神経は欠損部分が3cmを超えていなければ結合できる」ということがどのような状況に対して言われたことか、詳しいことが分かりませんのでやや推測が含まれますが、上肢や下肢の末梢神経が切断された場合に3cm程度の距離であれば、切断端の上下の神経を剥離(周囲の組織から遊離)して引き寄せ、直接縫合できる、というような意味かと思われます。末梢神経は直接縫合することで神経線維が再生し、それに伴って運動障害や感覚障害の回復が期待できます。また、欠損距離がより長い場合は、体の他の部位から採取した神経や、近年では新たに開発された人工神経を断端の間に入れて縫合することで、神経線維の再生が期待できるようになっていますから、必ずしも3cmを超えたら治療が困難という訳でもありません。 この「(末梢)神経は結合できる」ということがETS後の代償性発汗の治療に当てはまるか(応用できるか)という点ですが、交感神経幹の働きに影響しないように剥離して断端を何センチも引き寄せることは不可能ですから、直接には当てはまりません。それでは、このような場合に人工神経が使用できないか、実際に応用された例を知りませんので現時点では明確な答えは不明ですが、以下にその可能性について考察致します。 まず、多汗症や代償性発汗の病状には個人差が多く、発症する機序(原因やメカニズム)が必ずしも明確になっているとは言い難いと思います。ここでは、代償性発汗の発症機序として、ETSで胸部交感神経幹を一部切除することによって、他の部位の交感神経の活動が活発になった状態と考えます。この状態に対して、交感神経幹の切除部位へ肋間神経等の末梢神経を再移植することで症状が軽快する場合があるとされています。この処置では、前に末梢神経の結合で述べたように、交感神経幹を通っている神経繊維が上下で連絡することは期待できますが、交感神経幹内に元々存在していた神経細胞が再生する訳ではないと思われます。従って、もしも交感神経幹の切除部を上下に連絡することで代償性発汗が治療できるのであれば、人工神経でも類似の効果が期待できる可能性がありそうです。質問No. 311の回答では、交感神経幹を神経細胞も含めて再生させることは困難だと言っていますが、神経線維を連絡させるだけであれば、全く不可能とは言い切れないと思われます。ただし、人工物での交感神経幹再生の研究成果を知りませんので、実際には脊髄損傷の治療のように多くの困難があるかも知れません。 多汗症や代償性発汗の病態が解明され、さらに再生医療による治療が可能になるには、なお多くの研究が必要であると言わざるを得ません。
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