専門分野: 耳・鼻・咽頭
Q: 内耳再生及び臨床試験
ムンプス難聴になり片側の耳が重度の難聴になってしました。 京大の伊藤教授をはじめ、スタッフの方々が有毛細胞再生への研究をしてくださっていて非常に期待しています。 (1)現在、内耳にIGF-1を直接内耳に投与する、第1‐2相臨床試験を実施している最中ですが、ムンプス難聴も治る可能性はあるのでしょうか? (2)試験結果が良好な場合、その後の第3相臨床試験の規模や、一般の標準治療になるまではどのような工程で進み、期間はどのくらいかかるのでしょうか? (3)また、有毛細胞再生への遺伝子治療及びiPS細胞移植などの研究はどの程度進んでいるのでしょうか? (4)その他、内耳再生について良い話がありましたら、ご返答お願いします。 (5)あと、iPS細胞開発により再生医療に明るい未来が見え始めてきたと思いますが、認知症、視覚・聴覚障害、がん治療、その他の臨床試験は個々に第123相まで実施しないとやっぱり標準治療にはならないのですか?
掲載日: 2009.12.30
A:
ご相談について、内耳の再生に詳しい医師に問い合わせたところ、以下の回答を頂きました。 息子さんの難聴、お気持ちお察しいたします。現在、私の知る限りについて下記に概略をお答えいたします。 (1)現在、内耳にIGF-1を直接内耳に投与する、第?‐?相臨床試験を実施している最中ですが、ムンプス難聴も治る可能性はあるのでしょうか? →ムンプス難聴はウイルスによる内耳障害のもっとも代表的なもののひとつです。その病理所見の報告を見ると内耳は完全に変性している(感覚細胞が消滅している)ので、IGFのように、感覚細胞が壊れる前に、それを食い止めるという作用機序で聴覚回復を期待するのは、残念ながらきわめて困難と言わざるを得ません。したがって今回の臨床試験の対象にもなっていません。 (2)試験結果が良好な場合、その後の第3相臨床試験の規模や、一般の標準治療になるまではどのような工程で進み、期間はどのくらいかかるのでしょうか? →もうすぐ第2相試験が始まります。京都大学に加えて多くの病院が参加します。結果が良ければ、まず高度先進医療を申請し、OKならしばらく高度先進医療で実績を積みます。実績が十分だと保険診療として認められる、という道筋になります。詳しい戦略などについては京大耳鼻科に直接聞いて下さい。 (3)有毛細胞再生への遺伝子治療及びiPS細胞移植などの研究はどの程度進んでいるのでしょうか? →難聴の遺伝子治療、iPS細胞移植とも精力的な研究が、動物実験で進められています。しかし、残念ながら近い将来にヒトに応用できそうな成果はいまのところ挙がっていません。難聴は、単独では生命に危険が及ばないので、遺伝子治療、幹細胞移植などでも、安全性、効果の面で極めて厳格な知見が必要で、実用化までのハードルは決して低くありません。また、高度難聴に対しては人工内耳という手法があり、これが着々と進歩、向上しているので、再生医療は、これを追い越す必要がありますが、これも今のところ容易ではなさそうです。 (4)回答なし。 (5)iPS細胞開発により再生医療に明るい未来が見え始めてきたと思いますが、認知症、視覚・聴覚障害、がん治療、その他の臨床試験は個々に第123相まで実施しないとやっぱり標準治療にはならないのですか? →例えば抗がん剤の分子標的薬などでもそうですが、実験や小規模の試験で結果が良くても、多くの患者さんに用いられるようになると思わぬ副作用や問題点が出てくることが少なくありません。確かに、現在の臨床試験のシステムは科学的成果の迅速な応用の足かせになっている側面は否定できないのですが、社会全体に貢献する標準的な医療というような大きな観点からはこのようなステップが必要であると考えます。
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