専門分野: 皮膚・毛髪
Q: 色素疾患における再生医療の可能性について
小生の娘は、母体内での成長時に色素遺伝子障害によって発生する「先天性限局性まだら症」でございます。 限局的に色素細胞が存在しない症状です。 今後、再生医療によって治療が出来る可能性を有しているか御相談させていただきたくご投稿させていただきます。
まだら症の典型的な症状です。
今すぐに治療できるとは考えておりません。 しかし、事例の少ない疾患(主治医先生のお話しで、実際の疾患者を見た事がある人は殆ど居ないだろう)である事から、将来この疾患における再生医療(培養表皮移植、培養細胞移植、IPS細胞等)による治療の可能性が考えられるのか否かを御教示賜りたく存じます。 また、この疾患についての研究されている方が日本国内にいらしゃるのかも、ご存知であれば御教示賜りたく存じます。
現在、再生医療は命に直結する所が優先されている旨もお聞きしておりますので、その点は重々理解しております。 色素細胞が欠如している箇所への色素細胞再生は理論上は、可能な事なのでしょうか。
※ホームページ掲載に際し、一部文章を変更させていただきました。
掲載日: 2012.5.26
A:
まだら症の治療についてのご相談です。 これは胎児期に一部の表皮にメラニン細胞が定着できなかったことによって起こる状態で、限局性白皮症などとも呼ばれます。原理的には元の白い表皮(やけどの時に水泡としてめくれる皮膚の一番浅い層)を除去して、自身のメラニン細胞を含む表皮から取った細胞を移植して生着されることでメラニン細胞を含む(色ののついた)表皮にすることができます。実際、そのような治療をした論文があります(Guerra L, et al. Permanent repigmentation of piebaldism by erbium:YAG laser and autologous cultured epidermis. Br J Dermatol. 2004 150(4):715-21.)。この論文では、レーザーで白い表皮を焼いて、そこに培養したメラニン細胞を含む表皮を移植しています。論文に掲載されている処置前後の写真をみますと、確かに白い皮膚が大部分(白い所も少し残っています)色の付いた皮膚になっていますが、色調は処置した所の方が若干濃く、境目が全く分からない状態にはなっていません。処置を受けた人が処置後の状態にどの程度満足できるか、少し微妙かもしれないと感じてしまいました。特に、お子さんの場合は自分の意思では決められませんし、一度処置してしまうと元に戻す事は困難ですから、より慎重な判断が必要かもしれません。 なお、我が国で行われている培養自己表皮の保険適応は広範囲の熱傷に限られていますので、医療として行うとすれば医師主導の臨床研究のような形になるものと思われますが、調べた範囲では「白皮症」を対象とする臨床研究は登録されていないようです。 以上のとおり、原理的には可能ですが、我が国で責任を持って実施してくれる施設を探すのは難しいかもしれません。何か処置を受けられる場合は、信頼で期す医師と十分に相談の上、効果と有害事象などを十分理解された上で行ってください。
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