項 目 | 内 容 |
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専門分野 | 脳・神経・脊髄 |
質問タイトル | 脳性麻痺 サイトカイン治療の最新情報と有効性及びリスク |
質問内容 |
恐れ入りますが、2点ご質問があります。 1)以下の記事は2012年7月6日付の中日新聞朝刊1面ですが、これに関する最新情報がありましたら、ご教授ください。 【新生児の低酸素脳症 歯髄幹細胞が抑制 マウス実験 名大、名市大が発見】 出生時に仮死状態で生まれたり呼吸困難になったりして脳が損傷する新生児の低酸素脳症の進行を、歯の神経(歯髄)の幹細胞が抑制することを、名古屋大大学院医学系研究科の山本朗仁准教授や名古屋市立大大学院医学研究科の沢本和延教授らのグループがマウスの実験で発見した。6日、福岡市である日本炎症・再生医学会で発表する。 沢本教授らによると、新生児の低酸素脳症は1000人に2〜4人の割合で起こる。血液や酸素が行き渡らず脳内で神経細胞死が進み、15〜20%の新生児が死亡し、30%に脳性まひやてんかんなどの後遺症が残るが、有効な治療法はない。 グループは、人間の新生児にあたる生後5日のマウスを低酸素脳症の状態にして、脳に人間の乳歯の歯髄から採取した幹細胞を移植した。移植されたマウスの脳の損傷は2日後に脳全体の6%で、1カ月後の生存率は93%と高く、運動能力も改善した。移植しなかったマウスは脳損傷が20%まで進み、生存率は66%だった。 マウスの脳に歯髄の幹細胞の培養液を投与した場合も、移植した時と同じ程度に生存率は高まった。グループは、幹細胞から分泌されるタンパク質「サイトカイン」が、脳損傷や神経細胞死を抑制していると結論づけた。 山本准教授は「画期的な成果。今後、猿など大型動物で検証し、人間への早期応用を目指したい」と話している。 2)主に脳梗塞の治療目的でサイトカインカクテル点鼻療法を行っている民間の病院がありますが、この療法は低酸素脳症による小児脳性麻痺についても有効であると考えてよいでしょうか? 療法を行うことにより、薬で抑制しているてんかん発作が再発するなどその他の副作用も含めてリスクの方が上回ると考えるべきでしょうか? |
掲載日 | 2019年08月06日 |
回 答 | この研究内容は、Yamagata M, Yamamoto A, Kako E, et al. Human dental pulp-derived stem cells protect against hypoxic-ischemic brain injury in neonatal mice. Stroke. 2013 44(2): 551-554. という英文論文で発表されています。 1)「これに関する最新情報」ということですが、この論文を出した名古屋大学顎顔面外科学講座のホームページを見ますと、新生児低酸素脳症の治療法が中心ではなく、歯髄幹細胞に由来する培養液成分の治療応用が中心になっている様で、脳との関連では、その後、Mita T, Furukawa-Hibi Y, Takeuchi H, et al. Conditioned medium from the stem cells of human dental pulp improves cognitive function in a mouse model of Alzheimer's disease. Behav Brain Res. 2015 293: 189-197. という風に、この培養液がアルツハイマー病に効果があるとの論文も出ています。なお、山本朗仁先生は徳島大学歯学部で教授になっておられる様で、歯髄幹細胞由来成分による疾患治療の研究を続けておられます。また、名古屋市立大学の澤本和延先生のホームページによりますと、中枢神経を中心に再生医療の研究を続けておられます。 2)「脳梗塞の治療目的でサイトカインカクテル点鼻療法」についてですが、中日新聞では「幹細胞から分泌されるタンパク質「サイトカイン」が、脳損傷や神経細胞死を抑制していると結論づけた。」と書かれており、実際に歯髄由来の幹細胞からは神経再生を促すサイトカインが多く分泌される様ですが、近年では、同じ様に幹細胞から分泌されるエクソソームの役割も注目されています。エクソソームは、細胞から分泌される直径30nm~200nm程度の膜小胞で、離れた細胞や組織に情報を伝達する役割を担っていると考えられています。サイトカインとエクソソームの違いはその大きさで、サイトカインは比較的低分子のタンパク分子(小さい)であるのに比べて、エクソソームは通常の電子顕微鏡であればはっきりと見える大きさ(大きい)です。そして、幹細胞から分泌されるこのエクソソームが、幹細胞による治療効果のかなりの部分を担っているのではないかと考えられる様になっています。したがって、「サイトカインカクテル」が、単に精製されたサイトカインを混ぜたものである場合は、エクソソームが入っていませんので、幹細胞そのものや幹細胞の培養液(こちらはサイトカインとエクソソームの両方を含んでいます)と同様の効果があるとは期待できないことになります。 「薬で抑制しているてんかん発作が再発するなどその他の副作用も含めてリスクの方が上回る」とのご懸念ですが、これは薬を服用している限り効いていると思いますので、あまり心配する必要はないのではないかと思います。 低酸素脳症による小児脳性麻痺の治療にも有効な再生医療が開発されることを期待したいと思います。 |
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