NPO法人再生医療推進センター

再生医療相談室

No.710 脊髄小脳変性症について

項 目

内 容

専門分野脳・神経・脊髄
質問タイトルPVLの再生医療について
質問内容

私は脊髄小脳変性症(MJD/SCA3)です。

この病気の再生医療を調べたのですが、次の2つがありました。

●京都府 なぎ辻病院 (自己)脂肪組織由来間葉系幹細胞を用いた治療

⇒ 自分の脂肪から幹細胞を培養する

⇒ 自由診療 1300万円程かかる

⇒ お金さえあれば、すぐにでも治療可能

●(株)リプロセル(企業治験中)ステムカイマル (健常者ドナー)脂肪由来間葉系幹細胞

⇒ 健常者ドナー由来の体性幹細胞(MSC)の再生医療製品

⇒ 第二臨床治験中(~2021年12月完了目標)、現在の治験は応募中だが、実際は応募者多数で参加不可

⇒ 製品化されれば、保険適用の見込み(重度心身障害者医療費助成の制度では500円の負担になるのでは)

⇒ 製品化は最も早くて、第三臨床治験が無い場合、第二臨床治験終了の9か月後 2022年9月か?

●質問

費用面を考えると、ステムカイマルの製品化を待った方がいいですが、現状のSARAスコア14点の私は、既に車椅子を常用しているので、ステムカイマルの製品化の前に寝たきりになるかもと思い心配です。

病状改善の効果が期待できれば、「1300万の自由診療」の方が、いち早く治療が受けるので、魅力があります。

「1300万の自由診療」は自分の脂肪から幹細胞を培養するのですが、そもそも「脊髄小脳変性症」の私の脂肪を培養して、病状改善の効果が期待できますか?

掲載日2020年06月26日
回 答

なぎ辻病院の治療は、当NPOの理事でもある山岸久一 先生を中心に実施されている医療と思いますので、当NPOと無関係ではないことをまず申し上げておきます。

その上で、当相談室の考えを申し上げますが、結局のところ、現状では、効果の程はやってみないと分からない、ということになるかと思います。

まず、間葉系幹細胞(以下MSCと略)の由来についてですが、MSCは骨髄・脂肪組織や胎児付属物(胎盤や臍帯等)など様々なを組織から得ることができます。それぞれの組織から得られたMSCは微妙にその性質が異なるのですが、MSCとしての共通した性質は共有しています。

MSCを用いた治療は、世界中で様々な疾患に対して試みられており、すでに一部の疾患では保険適応が認められるなど、一般的な治療法として受け入れられるようになっていますが、さらにこれから多くの疾患、特に、現在まで有効な治療法が無かった疾患に対して、その有効性が認められることが期待されています。今回のご相談の脊髄小脳変性症もその様な疾患に属すると思われます。

MSCの作用機序ですが、MSCには免疫機能を緩和する機能が確認されていて、GVHD(移植片対宿主病)などではこの機能が重視されています。最近話題となっている新型コロナウイルスに対するMSCの応用でも、感染によって引き起こされるサイトカインストーム(多量のサイトカインによって免疫系が暴走して各種の臓器不全が起こる病態)に対してMSCが有効であることが期待されています。ただ、ご相談にもある各種の変性疾患に対するMSCの有効性については、未だ未解明の部分が多く、今後の研究に待つところが多いのが現状です。ただ、MSCが多様な物質を産生し分泌しているのは確かですから、MSCが障害された細胞に分化してその働きを補助するという機序よりも、MSCによるパラクライン効果(MSCが分泌する物質によって周囲の細胞が影響される)がその有効性の基礎になっているのではないかと考えられています。

ということで、ご相談に対する回答ですが、あなたのMSCがMSCとしての性質を失わない限り、効果は期待できるはずだと思います。脊髄小脳変性を起こす遺伝子異常がMSCの機能に影響しないことは未確認と思いますが、おそらく直接の関係は無いと推察されますので、あなた自身のMSCであっても、効果は期待できると思います。

ちなみに、なぎ辻病院での必要経費ですが、その大部分は脂肪組織からMSCを得るための培養等の費用で、病院の取り分はほとんど無いと聞いています。この様な再生医療を一般に広めるためには、培養等の経費をいかに安く抑えるかも重要であると痛感いたします。