再生医療のA B C-イモリは再生の夢を見るか?-
骨髄由来間葉系幹細胞を用いた臨床治験が、外傷性脳損傷を対象疾患として国内で開始されることになりました。
骨髄由来間葉系幹細胞を用いた臨床試験は、米国ですでに数年前から脳梗塞後の後遺症に対して施行されており、着実な臨床成果が得られつつあります。脳梗塞後の後遺症に対してはいずれ国内でも臨床試験が開始される予定です。
今回は、まだ国内で施行されていない“脳損傷への挑戦”ということで、その内容について分析いたしました。
3.再生医療による脳損傷への挑戦
毎日新聞(2016年8月14日)に次のような内容(要約)の記事が掲載されました。
東大病院(今井英明特任講師(脳外科))で頭部のけがによる身体のまひや言語障害などの症状を伴う「外傷性脳損傷」の患者で、脳に損傷を受けてから1〜5年が経過し、現在の医療では回復が見込まれない患者を被験者として骨髄由来間葉系幹細胞を加工した再生細胞医薬品を脳に直接注入して機能回復を試みる再生医療の治験(フェーズ2)を開始する。が経過し、現在の医療では回復が見込まれない患者を被験者として骨髄由来間葉系幹細胞を加工した再生細胞医薬品を脳に直接注入して機能回復を試みる再生医療の治験(フェーズ2)を開始する
この再生細胞医薬品は既に米国スタンフォード大学とピッツバーグ大学で「脳梗塞」の発作後6ヶ月から5年経過し、機能障害の残った被験者にフェーズ1/2を実施、完了しており、今回の「外傷性脳損傷」の患者を対象にした治験ではフェーズ2から開始されます。米国の「脳梗塞」の臨床試験フェーズ1/2の結果は、"運動機能の3つの指標(NIHSS, ESS, Fugl‐Meyer)全てで改善傾向が認められ、全く上がらなかった腕が頭上まで上がるようになり、全く足が動かず立ち上がれなかった車椅子の患者がかろうじて歩けるようになったと言われています(http://www.sanbio.jp/business/clinical_trials.html)。このような機能回復のメカニズムは現在のところ不明ですが、移植した幹細胞が損傷した部位に定着分化し、傷ついた脳の神経細胞の修復に働いたものと考えられます。
脳は一度損傷を受けると再生しないと言われてきましたが、近年の脳科学や再生医療の進歩で幹細胞を脳内へ移植することによる再生医療が試みられるようになってきました。着実に研究段階から臨床応用への段階に進んでいるようです。
さて、これらの治験で脳に直接注入される細胞はどんなものなのでしょうか?
ヒトの身体には色々な組織に多分化能と増殖能を有する「体性幹細胞」と呼ばれる幹細胞が存在しています。これらの幹細胞を再生医療に利用する試みは安全性や倫理的な問題がないことからiPS細胞やES細胞の臨床応用に先行しています。今回の治験で用いられる細胞は骨髄から採取された(間葉系)幹細胞を加工したもので、再生細胞医薬品(再生医療ベンチャー「サンバイオ」が開発)として治験が進められています。一人のドナーから数千人分の再生細胞医薬品の製造が可能です。したがってこの細胞の脳への直接注入は他家移植(同じ種の別個体の細胞を移植すること)に相当しますが、免疫抑制剤は不要とされ、倫理問題もなく、安全性もクリアしているとされています。
あれ、他人の細胞が脳内に注入されることになるのに拒絶反応を抑制する免疫抑制剤が必要ないなんて何故でしょう?
昔から脳の免疫反応は弱いとされていました。2013年に京都大学のグループが、霊長類(カニクイザル)を用いたiPS細胞から作製した複数の神経細胞を脳に移植し、自家移植(自分自身の細胞を移植すること)と他家移植における免疫応答の影響を調べました。その結果、自家移植の場合はほとんど免疫反応を起こすことなく神経細胞が生着するが、他家移植の場合は「ミクログリア」やリンパ球による免疫反応が起きていました。しかし、他家移植でも免疫抑制剤を用いずとも細胞がすべて拒絶されず、多くのドーパミン神経細胞が生着することも明らかにしました。やはり、脳の免疫反応は弱い臓器のようですね。結論として、他家移植では弱い免疫反応を起こすが移植細胞は免疫抑制剤を用いなくても生着して機能するということのようです。
脳への幹細胞の移植による再生医療は、その作用メカニズムの詳細を明らかにするに至っていませんが、脳梗塞、外傷性脳損傷、パーキンソン病に一定の効果を認める段階に達しているようです。
(NPO法人再生医療推進センター 21研究室 篠原)
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