脊髄損傷に対する再生医療等を活用した取組について、トピックスで取上げました話題に、基礎研究などの取組を加え、3報に分けて取上げております。第2報では、自家脂肪由来幹細胞、自家骨髄由来幹細胞を使用した治療と、抗体治療や神経再生促進物質に関する基礎研究を取上げました。
1.1 自家脂肪組織由来間葉系幹細胞を用いた脊髄損傷の治療(自由診療)
釧路孝仁会記念病院はこれまでに報告されている臨床研究結果等を根拠として「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」に基づき、患者さんの脂肪幹細胞を用いた脊髄損傷に対する治療計画を厚生労働省に提出して受理されました1)。脊髄損傷の後遺症に対する治療は、脂肪由来幹細胞治療で行われています。患者さんの脂肪組織は局所麻酔下で、主に皮下脂肪(10g程度)から採取します。そこから間葉系幹細胞を取り出して培養し、数千万個~1億個程度まで増やします。増やした幹細胞は、点滴で全身投与を行ないます。投与後は約6カ月間を目途に、リハビリテーションを集中的に実施して後遺症の軽減を目指します。
また、ヴィヴィアン美容クリニックは自家骨髄由来幹細胞を用いた脊髄損傷の治療(自由診療)を提供しています。第二種再生医療としては、研究・治療を含めて255件の再生医療等の届出(2019年3月12日現在)がされていますが、脊髄損傷に関しては、ここで取上げました2つの医療機関だけです。詳細は、厚生労働省/届出された再生医療等提供計画の一覧/第二種/治療(厚生労働省/届出された再生医療等提供計画:「社会医療法人孝仁会 釧路孝仁会記念病院」あるいは「ヴィヴィアン美容クリニック」)を参照ください。再生医療等を受けられる方に対する説明文書及び同意文書、費用などを確認することができます。
1.2 抗体治療 臨床試験(治験)予定
脊髄損傷で手の指の運動機能を失ったサルに対し、神経の再生を促す抗体を投与したところ、指の機能を回復させることに成功したと、京都大学の高田教授(神経科学)や大阪大学の山下教授のグループが発表しました2-3)(2018年1月5日)。これまで、成熟した中枢神経においてひとたび損傷した神経が再生し繋がることは難しいとされていましたが、この成果は、脊髄損傷や脳卒中などの中枢神経障害後の運動機能回復の治療につながると期待されます。
同グループは脊髄損傷後に、損傷部に増加し神経の修復を妨げるRGMaというタンパク質に着目し、同タンパク質の働きを抑える抗体をマウスから作製しました。同抗体を手の指がまひした脊髄損傷直後のアカゲザル4頭に対し、4週間にわたりチューブを使って直接患部に投与しました。同グループは、傷ついた神経が投与後に再生し、筋肉の動きなどを支配する神経と接続したことを確認しました。
具体的には、高等霊長類特有の指先で物をつまむ精密把持機能の回復を確かめました。壁や床の穴に入った餌を制限時間内にどれだけ獲得できるかを測定しました。抗体を投与したサルは、6週間後に健常のサルとほぼ変わらない餌の数を壁から取得でき、床でも14週間後に8割程度の回復をみせました。未治療の自然治癒では壁で約6割、床で約2割程度の回復でした4)。
同グループはこの研究に関連し、田辺三菱製薬(株)とヒト用の抗体を開発中とのことです5)。脊髄の中枢神経が、がん転移による圧迫で損傷した患者に対し、大阪大学が中心となって臨床試験(治験)を始める計画です。
1.3 神経再生促進物質(マウス)
横浜市立大学大学院生命医科学研究科の竹居教授と米国エール大学医学部神経学Strittmatter教授を主体とする研究グループは、中枢神経系の再生を阻む主要因に挙げられるNogo受容体-1の機能を制御する神経回路形成因子LOTUSが、脊髄損傷や視神経障害の動物モデルにおいて神経再生を顕著に促進することを発見したと発表しました(2017年9月21日)6)。
神経回路形成因子LOTUS を過剰発現させると、脊髄損傷や視神経障害による障害後の神経再生が促進されることを明らかにしました。この研究によって、LOTUSは神経再生促進物質として脊髄損傷や視神経損傷において有効であることが確かめられ、今後、LOTUSの生理機能を利用した神経再生医療技術の開発に繋がります。近い将来、外から精製LOTUSタンパク質を投与する薬物治療や、LOTUSを遺伝子導入する遺伝子治療などの神経再生医療技術が確立され、臨床応用へと展開することが期待されます。
(参考資料)
(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)