No.20 再生医療トッピクスで「iPS細胞からミニ肝臓(重篤な肝臓病の乳児に移植する臨床研究)を作製」についてご紹介しました。日本人への免疫適合性の高いHLA型をもつHLAホモドナーiPS細胞から、ミニ肝臓作製に必要な3種類(肝臓前駆細胞、血管内皮細胞、間葉系細胞)の全ての細胞および小型化した肝臓の機能を持つミニ肝臓(直径約0.15㎜)を、高い品質を確保して製造することが可能となったという情報でした。
同研究の中心メンバーのお一人である現東京医科歯科大学の武部教授を中心とするチームがiPS細胞から肝臓と胆管、膵臓を同時に作製することに世界で初めて成功したという情報が配信されました1)-3)(2019年9月26日)。当該研究に関する論文は9月25日付の英科学誌ネイチャーに掲載されるとのことです。複数の臓器が関係する病気の研究や創薬に活用でき、将来は患者さんへの移植も目指すとしています。
同研究チームは、まずiPS細胞から原始的な腸の構造を作り、腸の前方と中部から細胞の塊を採取し、2種類の細胞を接触させて60日ほど酸素の多い特殊な環境で培養することで、肝臓や膵臓が胆管で腸とつながった約5mm角の大きさのミニ多臓器の作製を実現しました。肝臓で分泌された液体が胆管を通り、原始的な腸へ流れ込む様子を確認し、胆管に異常がある遺伝病の症状の再現にも成功したとのことです。これは、受精から1~2カ月の胎児の臓器ほどの大きさだそうです。
同チームでは前腸組織から出るレチノイン酸という物質が、肝臓、胆管、膵臓のもとになる細胞ができるのを促したと考えています。肝臓、胆管、膵臓が関係する病気は胆管閉塞や肝硬変などがあります。患者さんも多く、今回のミニ多臓器を使えば病態を再現することが可能となり、発症メカニズムの解明や治療薬の開発に役立つと期待されています。
ヒトに移植するには臓器とともに血管なども同時に作製する必要であるとされています。武部教授は「まだ基礎研究の段階だが、10年以内に今回開発した技術を実用化させて患者さんに届くようにしたい」と語られました。
(参考資料)
(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)