1.企業による糖尿病に対する再生医療等の取組
1型糖尿病の患者さんに豚の膵島を移植し、血糖値が下がるなどの有効性が示された臨床研究と、失われた膵β細胞を復元して糖尿病を根本から治療する経口剤の開発に関する基礎研究、そしてiPS細胞から分化誘導した膵細胞を用いて、1型糖尿病に対する再生医療の開発及び2型糖尿病に対する創薬研究に関する取組を紹介いたします。
1.1 糖尿病:豚の膵島 異種移植 臨床研究
◎(株)大塚製薬工場
臓器移植は、末期臓器不全に対する根治的治療ですが、恒常的なドナー不足は臓器移植における大きな課題です。ドナー不足を解決する手段として、ヒト以外の動物をドナーとする異種移植の前臨床試験が進んでいます。異種移植におけるドナー動物として、ヒトと臓器の解剖学的・生理学的な類似性、多産であり動物個体数の十分な確保が可能、微生物学管理法の確立、などの理由からブタが最も有力な候補です1),2)。
同社の研究開発チームは、糖尿病患者さんに豚の膵島を移植し、血糖値が下がるなどの有効性が示されたとの臨床研究の結果を日本再生医療学会で発表しました3),4)。治療の対象は1型糖尿病の患者さんとする当該研究は、アルゼンチンなど海外で実施されました。同社は、清潔な環境で育てた病原体のない医療用の赤ちゃん豚から採取した膵島を直径0.5mmの特殊な素材のカプセルで覆い、免疫拒絶反応を起こさず、インスリンがしみ出るように加工し、ニュージーランドやアルゼンチンで計24人の患者さんの腹部に投与量などを変えて移植し、その結果として症状の改善がみられたとしています。
特に体重1Kg当たり細胞1万個を2回移植した4人のグループでは、ヘモグロビンA1cは4人全員で下がり、平均値では2年以上にわたり糖尿病治療の目標となる7%未満を維持したとのことです。免疫抑制剤は使用せず重い副作用はなかったとしています。この結果に基づいて、国内でも、数年後に1型糖尿病の患者さんにブタ細胞の移植が計画されています。
1.2 糖尿病:膵β細胞の再生 経口剤 マウス 礎研究
◎ノバルティスファーマ(株)
当該研究は初期段階ですが、失われた膵β細胞を復元して糖尿病を根本から治療する経口剤の実現の可能性を示唆しているとのことです。この度、発表された化合物は世界で初めてヒトβ細胞の増殖促進作用を示したとしています5)。
細胞培養で非常に感度高くβ細胞の分裂を検出する方法を開発し、わずかな兆候も見逃さないように心掛け、200万種類の化合物を使って、どの化合物がβ細胞の分裂を引き起こすのかを試験し、マウスとヒト両方のβ細胞に効果のある数種の化合物を絞り込むことに成功したとのことです。
実験の結果、再生した細胞にもグルコースに反応してインスリンを分泌する機能が示され、ヒト1型糖尿病モデルマウスにその化合物を投与すると、2週間以内に血糖管理の改善が見られたとしています。
現在、これらの化合物がβ細胞の複製を促進する機序の解明に努めており、β細胞の再生を誘導するが他の細胞の複製は起こさない化合物の発見がゴールとしています。安全性に問題がなく、必要な特性をすべて備える化合物を探索していますが、そのような化合物が臨床試験に進むまでには、まだ多くのステップが必要のようです。
1.3 糖尿病 iPS細胞 膵細胞
◎武田薬品工業(株) 京都大学iPS細胞研究所
同社は2015年から京都大学iPS細胞研究所と、iPS細胞技術の臨床応用に向けた共同研究を開始しています。当該共同研究では、がん、心不全、糖尿病、神経変性疾患、難治性筋疾患など6つの疾患領域でiPS細胞技術の臨床応用を目指しています6),7)。
1型糖尿病に対する再生医療開発と2型糖尿病に対する創薬研究を目指しています。iPS細胞から分化誘導した膵細胞を用いて、1型糖尿病に対する再生医療の開発を行ないます。また、iPS細胞から分化誘導した膵細胞と同社の化合物・薬物ライブラリーを用いて、2型糖尿病に対する創薬研究を行うとしています。
なお、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)は、平成31年(令和元年)度「再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業(再生医療シーズ開発加速支援)」として、同社の「iPS細胞由来膵島細胞(iPIC)を用いた1型糖尿病に対する細胞治療の製造法開発及び非臨床試験の実施」を採択したと公表しました8)。同事業は補助事業(補助対象金額全体の3分の2をAMEDが負担し、残りの3分の1を企業が負担する)として実施されます。
図1 再生医療等に対する糖尿病に対する取組(取組紹介(1)-(5)、(7))
(参考資料)
(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)