皮膚や血液の細胞などから作製されるiPS細胞(人工多能性幹細胞)は、体の中の様々な細胞になることができ、再生医療の普及、個別化医薬の実現と難病の創薬、新たな生命科学と医療の開拓に活かされています。患者さんの皮膚や血液などからiPS細胞を作製し、網膜、心筋、神経幹細胞などにして移植する自家移植は、拒絶反応が起きにくい再生医療に繋がると期待されてきました。しかし、自家移植はiPS細胞を作製し、目的とする細胞に分化させた後に移植するために、長い時間と高額な費用が必要となります。
そこで京都大学iPS細胞研究所は2015年から拒絶反応のないiPS細胞を作製するために、あらかじめ健康で「HAL注1)ホモ」という特殊な細胞の型をもつボランティアの方から作製し、保存しておく「iPS細胞ストック事業」の取組みを始めました。経費を抑え、短期間に移植できるとして、140種類のiPS細胞を備え、日本人の90%を満たす目標が設定され、2013年に始まりました。国は10年間の支援を表明し、2018年は13億円、これまでに90億円以上が投入されてきました。
しかし、多くの型の提供者を捜すのに難航し、供給が始まったiPS細胞は4種類です。同研究所は140種類を備える方針から拒絶反応が起きにくいようにゲノム編集した6種類のiPS細胞と前記4種類を備蓄する方針に転換しました1)-2)。拒絶反応を引き起こす免疫細胞にとって目印になる物質「HLA」の一部をゲノム編集技術で壊して拒絶反応が起こりにくくする取組がなされています。動物実験ではその効果が検証されており、5~6種類を追加することで、ほぼ全ての日本人をカバーできるようですが、安全性評価など、臨床応用には時間を要すとしています3)。
一方、iPS細胞から移植用の細胞を作製する企業の立場からしますと、移植用の細胞のがん化や、異なる細胞が混入していなかといった安全性をそれぞれの細胞ごとに確認するのは多額の費用と試験の手間がかかることになります。免疫抑制剤の進歩もあり、1種類のiPS細胞を使い、免疫抑制剤で拒絶反応を抑える方が事業として成立しやすいという見解もあり、複数の型を使うことに慎重な立場となります。
また、iPS細胞による再生医療は臨床研究で目や神経の難病患者に移植される段階に至ったことで、国は事業化の段階に入りつつあると判断も手伝い、2019年に入り、同研究所のiPS細胞の備蓄事業に対する支援打ち切りも浮上しましたが、当初の予定通り2022年度まで年10億円規模の予算継続が決まったようです。
同研究所は今後、ゲノム編集した細胞の安全性について慎重に検討し、2020年ごろから研究機関や企業に提供する予定としています。まだ、実際に再生医療で使われる時期などは決まっていないようです。山中所長によりますと「100種類以上をそろえるのは非常に難しかった。この10種類は日本人だけでなく、世界の大半の人もカバーできる」とのことです。
(用語解説)
(参考資料)
(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)
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