京都大学iPS細胞研究所の妻木教授らはiPS細胞(他家)から作製した軟骨組織をケガや運動などで軟骨が損傷した膝関節に移植する再生医療の臨床研究について、2019年中に同学内の審査機関に申請する方針であることが報じられました。ここでは、先ず変形性膝関節症の概要と、同関節症に対する再生医療等を含めた治療について触れ、続いて本題のiPS細胞による変形膝関節症に対する臨床研究について紹介致します。
加齢などが原因で「ひざの軟骨」がすり減り、痛みや腫れ、曲げ伸ばしの制限とともに「ひざの変形」が起こる病気です。日本では2500万人以上もいるといわれています。特に中高年に多く、50歳用ではほぼ2人に1人の割合で変形性膝関節症があると推計されています。関節軟骨の老化によることが多く、肥満や素因(遺伝子)も関与しています。また骨折、靱帯や半月板損傷などの外傷、化膿性関節炎などの感染の後遺症として発症することがあります。
症状が軽い場合は痛み止めの内服薬や外用薬を用いたり、膝関節内にヒアルロン酸の注射などが行なわれます。また大腿四頭筋強化訓練、関節可動域改善訓練などの運動器リハビリテーションを行ったり、膝を温めたりする物理療法が行われます。足底板や膝装具を作成することもあいあす。このような治療でも治らない場合は手術治療が検討されます。これには関節鏡(内視鏡)手術、高位脛骨骨切り術(骨を切って変形を矯正する)、人工膝関節置換術などがあります。その病態は複雑なため、いまだ根本的な治療薬は開発されていません。
関節軟骨は修復能に乏しく、損傷すると治癒しないことが知られています。軟骨の損傷・変性を根治的治癒に導く治療方法は現状ではありません。現状では人工の関節に置き換える手術による治療が行われています。人工関節は耐用年数に限界があり、60歳以下の患者さんへの適用が難しく、加えて高い侵襲を伴う術式のため、軟骨障害が中等度以下の患者さんにも適用しにくいという課題があります。
3.1 現状の取組
厚生労働省の「届出された再生医療等提供計画の一覧3)(再生医療等提供計画を国に届出した医療機関(再生医療等提供機関)の一覧)」の内で、第一種再生医療等及び第二種再生医療等の提供計画から変形膝関節症に関連する研究及び治療を抜粋し、紹介致します。なお、当該一覧による情報は、2020年1月12日現在のものです。
(1)第一種再生医療等・研究に関する提供計画4)
(2)第二種再生医療等・研究に関する提供計画7)
(3)第二種再生医療等・治療に関する提供計画8)
変形性膝関節症の治療に関する提供計画は2019年3月12日時点で26件でしたが、現在は194件となり、急速に増えております。194件の内、多血小板血漿を用いた治療は156件、脂肪由来間葉系幹細胞等を使用した治療は38件です。自由診療による治療となりますが、治療内容や費用等の詳細は、参考資料8を参照ください。
損傷軟骨を治療するための再生医療製品として、軟骨から製造された再生医療等製品も開発されていますが、軟骨細胞の採取量に限界があるため、iPS細胞由来軟骨を移植することによる関節疾患の治療法の開発が進められています。
京都大学iPS細胞研究所の妻木範行教授らは他人のiPS細胞から育てた軟骨組織をケガや運動などで軟骨が損傷した膝関節に移植して補う再生医療の臨床研究について、2019年中に学内の審査機関に申請する方針です9)-11)。対象は損傷部が小さい膝関節です。将来的には肘や足首などの軟骨損傷や高齢者に多い変形性膝関節症にも応用する考えです。同研究チームは臨床研究計画書を再生医療に関する学内審査機関で承認されれば国の審査に進み、2020年中に1例目の移植実施を目指しています。臨床研究が順調に進めば、旭化成(株)が実用化を検討する計画で、共同研究を通じて軟骨組織の量産技術を確立し、2029年の実用化を目指しているとのことです。
京都大学iPS細胞研究所が備蓄しているiPS細胞から直径2~3mmの球状の軟骨組織を育て、数cm2の患部に移植します。この軟骨組織が周辺の軟骨組織と結びつき、機能することを期待しています。移植した軟骨組織は血管がなく、患者さんの免疫細胞が軟骨細胞に触れることもなく、拒絶反応が起きにくいとしています。膝関節の軟骨を損傷したブタを使う実験ではヒトiPS細胞から作製した軟骨組織を移植し、約1カ月にわたり体重約30kgを支えることができたそうです。
(用語解説)
(参考資料)
(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)
プライバシーポリシー
再生医療推進センターは再生医学、再生医療の実用化を通して社会への貢献を目指す非営利活動法人です。
Copyright © NPO法人再生医療推進センター All rights reserved.