NPO法人再生医療推進センター

No.49 再生医療トッピクス

心不全などに対する再生医療等の取組(3)

「再生医療等提供計画一覧」から引用

1.はじめに

2014年11月に「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」と共に、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」が施行されました。再生医療等の安全性の確保に関する手続きや細胞培養加工の外部委託の規則等が規定されました。再生医療等を提供する医療機関等は、その提供計画を認定再生医療等委員会の審査を受けた後に、厚生労働大臣に届出ることが義務化されています。

その後、2017年 11月再生医療等の安全性の確保等に関する法律施行規則の一部を改正し、再生医療等提供機関が提供する再生医療等に係る

①再生医療等提供機関の名称など

②提供する再生医療等及び再生医療等の区分

③再生医療等を受ける患者さん等に対する説明文書及び同意文書の様式など

が公開され、インターネットによって確認できるようになりました。当該説明文書には、再生医療等の内容、その効果と危険性、同意書、健康被害に対する補償、個人情報の保護及び費用などについて記載されています。

ここでは、上記の厚生労働省の「届出された再生医療等提供計画の一覧1)(再生医療等提供計画を国に届出した医療機関(再生医療等提供機関)の一覧)」から心不全などに関連する研究及び治療を選んでご紹介致します。「届出された再生医療等提供計画の一覧」の但し書きには「再生医療等を受けようとする場合は、同意説明文書をよく読み、医師からの十分な説明を受け、理解・納得した上で検討してください。」と記されています。


2.届出された再生医療等提供計画に基づく研究及び治療

2.1 第一種再生医療等・研究

第一種再生医療等・研究に関する届出は18件があります。その内、心不全関連の研究の届出は1件です(2019年9月9日現在)。因みに、「第一種再生医療等・治療」の届出はありません。

なお、第一種再生医療等技術とは、「人の胚性幹細胞(ES細胞)/人工多能性幹細胞(iPS細胞)/人工多能性幹細胞様細胞を用いる場合や、遺伝子を導入する操作を行った細胞を用いる場合、あるいは動物の細胞、あるいは投与を受ける人以外の人の細胞を用いる場合」が該当します2)


(1)重症心筋症:ヒトiPS細胞 心筋細胞シート(他家) 移植 臨床研究

◎大阪大学医学部付属病院

本臨床研究3)は、既に再生医療トピックスN.46、「心不全などに対する再生医療等の取組(1)」でご紹介しました。このトピックスから内容を確認できます。


2.2 第二種再生医療等・研究

第二種再生医療等・研究に関する届出は65件です。その内、心不全関連の研究の届出は6件です(2019年9月9日現在)。因みに、「第二種再生医療等・治療」の届出は189件がありますが、心不全関連はありません。

なお、第二種再生医療等技術は、「幹細胞を利用して培養を行っている場合、あるいは人の身体の構造又は機能の再建、修復又は形成を目的として、培養を行っている場合、あるいは培養を行っていなくても相同利用注1)でない場合」が該当します2)。


(1)重症慢性虚血性心不全:心臓組織幹細胞(自家)移植 臨床研究

◎公益財団法人 日本心臓血圧研究振興会附属 榊原記念病院

同病院は、心臓の組織から取り出した幹細胞を心不全の治療に使う再生医療の臨床研究を始めました4)-6)。筋肉や血管に育つとされる幹細胞を患者さんの心臓に移植して回復を促します。治療の安全性や効果を検証し、実用化につなげます。同臨床研究では、患者さんの心臓組織から幹細胞を採取し、その細胞を培養皿上で6〜8週間ほどかけて培養した後に、心臓カテーテルを用いて、バイパス血管の中に、心臓幹細胞を注入します。臨床研究は、心不全の治療として心臓のバイパス手術を受けられたが、心臓のポンプ機能が十分に回復しない重症患者が対象です。

細田総合診断部副部長のお話6)では、米国では既に、20人程の重症心不全患者さんに幹細胞を移植する臨床試験が行われているとのことです。同臨床試験の結果では、幹細胞移植を受けた患者さんにおいて、この治療を受けなかった患者さんよりも、優れた心臓ポンプ機能の改善と、息切れや動悸といった自覚症状の軽減が認められたとのことです。副作用の増加も報告されていないようです。


(2)虚血性心不全:脂肪組織由来間質細胞(自家) 冠動脈注入 臨床研究

◎金沢大学付属病院

臨床研究の目的は、患者さん自身の皮下脂肪から採れる脂肪組織由来間質細胞を、壊死したかあるいは動きの弱くなった心筋を栄養する冠動脈に注入し、心機能が改善するかどうかを検討することです5)。臨床研究では、最初の3名の患者さんは、約200cc の脂肪を採取し、その脂肪から分離精製した3.3×103個/ Kg(体重60Kgの方で約2.0×107個)を投与し、次の3名の患者さんでは、約400ccの脂肪を採取し、その脂肪から分離精製した6.6×105個Kg(体重60 Kgの方で約4.0×107個)を投与する計画です。


この細胞移植治療は、動物実験においては壊死する心臓の筋肉を減少させる効果や新しい血管を作り出す効果があると報告されています。現在ヨーロッパでは、すでに急性心筋梗塞、陳旧性(古い)心筋梗塞による重症心不全患者さんに対する再生治療として臨床試験が開始されています。今までのところ細胞の移植に関連した予期せぬ副作用や合併症の報告はなく、壊死する心臓の筋肉を減少させる効果や運動時の心肺機能を改善させる効果も示されています。


(3)重症心筋症:骨格筋筋芽細胞シート(自家) 移植 臨床研究

◎大阪大学医学部附属病院

再生医療トピックスN.46、「心不全などに対する再生医療等の取組(1)」で重症心不全(虚血性心疾患)に対する骨格筋筋芽細胞(自家)の移植をご紹介しました。現在、成人の拡張型心筋症、虚血性心筋症患者さんに対して、筋芽細胞シート移植の臨床研究、治験が実施されており、その安全性と有効性が次第に確認されつつあります5)


(4)小児重症心筋症:骨格筋筋芽細胞シート(自家) 移植  臨床研究

◎大阪大学医学部附属病院

骨格筋筋芽細胞シートの適応拡大を図るための臨床研究です5)。筋芽細胞を体外でシート化して患者さんに移植する治療法は、同大学病院にて世界に先駆けて実施されてきました。この臨床研究の目的は、小児の重症心筋症患者さんに対して、筋芽細胞から作製した細胞シートを心臓に移植し、その安全性を確認することにあります。細胞シートの移植までの手順は以下の通りです。

なお、臨床研究参加予定人数としては、重症心筋症15人の方が予定されています。


(5)慢性心不全:骨髄由来間葉系幹細胞(自家) 静脈投与 臨床研究

◎兵庫県立尼崎総合医療センター

心不全の再生医療には骨の中の単核球を用いるものと、患者さんの骨の中の心臓の細胞や血管の細胞になる源の細胞、間葉系幹細胞を用いるものがあります。また細胞を移植する方法には、心臓の筋肉に直接注射する方法、心臓の血管である冠動脈に注射する方法と、腕の静脈から投与する方法があります。心臓の筋肉に直接注射する方法は、技術的に難しく不整脈を生じる危険性があり、心臓の血管である冠動脈に注射する方法では症例により心筋梗塞を生じることが報告されています5)

同臨床研究では患者さんから約40mLの骨髄を採取して、採取された骨髄の中の間葉系幹細胞を細胞培養加工施設で培養し、同細胞を患者さんの腕の静脈から点滴し、移植します。現在までこの間葉系幹細胞を静脈から移植する方法で 39 例の心不全の患者さんが治療されたという報告や、低フォスファターゼ症という病気の子供さんを治療した報告がありますが、安全性には問題なく大きな副作用は報告されていません5)

骨髄由来間葉系幹細胞の静脈投与までの流れは、以下の通りです。


(6)小児拡張型心筋症:心臓内幹細胞(自家) 移植 臨床研究

◎岡山大学病院

本臨床研究5)は、既に再生医療トピックスN.37、「心不全不全などに対する再生医療等の取組(2)」でご紹介しました。このトピックスで内容を確認できます。


topics49

図1 心不全などに対する再生医療等の取組(取組(1)、(2)、(3)で紹介)


(用語解説)


(参考資料)

  1. 厚生労働省ホームページ:届出された再生医療等提供計画の一覧
  2. 厚生労働省:再生医療等技術、第一種・第二種・第三種再生医療等技術のリスク分類
  3. 厚生労働省ホームページ:届出された再生医療等提供計画の一覧 第一種再生医療等・研究に関する提供計画
  4. 日本経済新聞電子版:榊原記念病院、心臓の幹細胞で心不全の再生医療、2017年7月9日
  5. 厚生労働省ホームページ:届出された再生医療等提供計画の一覧第二種再生医療等・研究に関する提供計画
  6. 公益財団法人 日本心臓血圧研究振興会附属 榊原記念病院:心臓に含まれる幹細胞を用いた再生医療の研究、2018年1月8日

(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)