この法人は、再生医療の進歩及びその実用化に寄与するための活動を行うことを目的とします。
「再生医療」とは、機能障害や機能不全に陥った生体組織・臓器に対して、細胞を積極的に利用して、その機能の再生をはかるものであります。現在、臓器や組織の機能がそこなわれた疾患に対しては、臓器移植又は人工臓器による治療しか有効ではありません。しかし、臓器移植には、常に拒絶反応、免疫抑制の医学的問題と深刻なドナー不足という社会的問題を抱えており、これらの諸問題の解決策として、「再生医療」の実現が強く求められています。
「再生医療」は、臨床医学、基礎医学以外に分子細胞生物学、発生工学、細胞工学、組織工学、材料工学等、さらに、生命倫理学、法律学、医療経済学等を包括して成立する領域であります。 既に、皮膚や骨の分野においては、再生医療として実用化され、世界的に臨床応用されていることは周知のところでありますが、肝臓、膵臓や血管の領域に関しても、その再生医療の実用化が行われつつあります。近年多分化能をもった細胞(万能細胞)を用いる研究の目覚しい発展があり、中枢神経や角膜、網膜、内耳、さらには心臓などに対する再生医療の実用化も将来的に可能になるであろうと考えられており、その成果が待たれています。
「再生医療」を含むバイオテクノロジーの急速な発展は、21世紀の人類にとって、「IT革命」と並ぶ、重要な人類発展の柱と位置付けられるに至っています。この世界的潮流を受けて、日本政府は平成11年1月29日に「バイオテクノロジー産業の創造に向けた基本方針」を申合せ、バイオ関連研究開発事業を『ミレニアムプロジェクト』として国家戦略を構築し、実行に着手したところであります。その目標のひとつに「疾病の克服、健康の増進」があり、(例)としては、「オーダーメイド医療の提供による副作用の予防、生体適合材料の開発」が挙げられています。これを実現する領域が「再生医療」であります。
この法人は再生医療の普及を図るとともに、再生医療に携わる研究者と産業界の橋渡しをすることにより、再生医療の実用化、新しい雇用の創出、国際競争力の強化等を通して、社会に貢献することを確信して設立されるものであります。
近年、再生医療の実用化の可能性、及びその必要性が認識されはじめ、これまでにも個人単位では当NPO法人が目的とする活動がおこなわれてきましたが、幅広い人々を対象とし、かつ活動範囲も多様にわたるために、個人単位の活動のみで目的の達成をはかるには限界があります。再生医療の実用化を目指そうとする社会的機運が高まった結果、平成14年4月に再生医療に関する1回目の学会が新しく開催されました。
そこで、これを期に、従来の再生医療に関する活動を総括するために法人を設立し、かつ、その活動をより一層効率的に機能させて広く社会に貢献する目的をもって、設立申請に至った次第です。
3.主な事業テーマ
NPO法人再生医療推進センターでは、以下に掲げるような3つの段階にわけ活動を進めていきます。
第1段階:情報発信基地としての活動
(1) 再生医学・再生医療の正しい知識の啓蒙
最近、再生医学・再生医療に関する情報が新聞紙上を賑わせていますが、研究者以外の一般の人々には必ずしも正しく理解されてはいるとは思えません。幅広い人々に正しい知識を得てもらうための活動を積極的に展開します。具体的な活動としては、日本再生医療学会の全面的な支援のもとに、シンポジウム、ワークショップを開催したり、ホームページを開設し、ウェブ上で意見交換をおこなったりします。
(2)再生医学・再生医療に関する情報の提供
当NPO法人の大きな柱のひとつが情報提供です。日本再生医療学会会員、再生医療関連の企業や一般の人々に向けて、日本再生医療学会が発信する最新の情報をインターネットを通じて提供します。情報提供は当NPO法人の義務であり、日本再生医療学会会員以外からのアクセス可能なサイトも必要で会員サイトとほぼ同じ情報を提供しなければならないと考えております。また、一般の人々から得られる情報は、一般の考え方を理解する上で重要な情報源となるでしょう。さらに日本再生医療学会会員や当NPO法人に参画する企業を対象とする有料サイトを開き、このサイトには後述する知的財産に関する情報、臨床試験情報、バイオベンチャー立ち上げ、バイオベンチャーの事業計画に対するコンサルティングを受けることが可能となるようなネットワークを構築します。現在、再生医療情報活用に関するネットワークは存在せず、研究者が限られた領域、情報の中で研究活動しているのが現実です。当NPO法人の情報ネットワークを中心とした情報収集、提供活動を通じて日本の再生医療研究者が、日本再生医療学会が持っている基礎研究情報、開発情報、特許情報、臨床試験情報、企業との情報交換などが可能となることをめざします。
(1)知的財産の取得、管理・運用に関する支援活動
学会員が実際に特許を取得する際、煩雑な手続きやすでに取得された特許との重複など種々の障害があります。当NPO法人では、弁理士事務所と契約しスムースな特許出願を支援し、専任のスタッフによって知的財産の管理・運用に対する支援をおこないます。世界レベルの特許の取得、維持を支援できる組織を構築することを一つの目標とし、学会員の特許取得、特許管理、知的財産の運用を受託するシステムを作ります。
(2)バイオベンチャー企業の支援
当NPO法人活動の中から派生するビジネスチャンスでベンチャー企業が立ち上がることとなります。バイオベンチャー企業の設立支援は当NPO法人の重要な役割であり、具体的な活動の一つとして情報支援および事業計画の評価があります。情報支援としては、日本再生医療学会から得られる情報をもとに、バイオベンチャー企業に対するコンサルティング業務をおこない、さらに投資家からの調査依頼も受け付け、バイオベンチャー企業の事業計画の評価をおこないます。さらにベンチャー立ち上げを志す起業家への支援も重要であり、インキュベーション研究所の紹介、インキュベーション研究に対する支援、ベンチャーキャピタルの紹介などもおこないます。
(3)臨床試験の計画
学会活動を通じて得られる臨床応用に関する情報を整理し、臨床試験の実現に向けての日本再生医療学会と当NPO法人共催の研究会をコーディネートします。臨床開発に値するテーマ選択に関しては日本再生医療学会と協力し、臨床試験の具体案を作成します。テーマ選定後、再生医療推進センターが臨床試験の具体化のための検討をおこなう特別研究会を組織し、研究会会長、臨床試験担当施設および担当医師の選択、臨床試験の設計、共通プロトコールなどを検討します。臨床試験の財源が確保された時点で、臨床試験実働のため既存のCRO(Clinical Research Organization)への情報提供をおこない、CROとの共同で臨床試験を推進します。
(1)細胞の保存、供給に関する活動
実際に臨床応用がおこなわれる際に、対象となる患者の人々には同じレベルの治療を受ける権利があります。これを実行するには細胞・組織資源の安定した確保ならびに細胞・組織の機能の安定性を保つための保存法の確立および供給システムの確立は欠くことのできない事項です。日本再生医療学会と協力し、当NPO法人が中心となって細胞資源の選択基準、細胞・組織の保存方法および供給方法を構築することは、再生医療を普及するために重要になってくると考えます。
(2)日本再生医療学会への支援
日本再生医療学会への寄付や研究助成の方法についても検討をおこないます。このことにより、一層学会との強い関係が構築できます。
平成13年10月26日
NPO法人再生医療推進センター理事長 井上一知