専門分野: 心臓・血管
Q: 拡張型心筋症の細胞移植について
出せていますが、この臨床試験はまだもう少し時間がかかると存じます。ただこの方法は心臓の表面に「置く」だけですので、手術の後でも小切開または内視鏡的に追加できる可能性が高いと考えています。 ともあれ一度心エコー等を拝見させて戴ければより正確なことがお話できますのでご検討下さい。
掲載日: 2006.8.30
A:
(事務局より:専門家のご意見を掲載します。なお、ご質問に方には病院をご紹介させていただきました。また、英語の略語は以下のとおりです。) VEGF(vascular endothelial growth factor):血管内皮細胞増殖因子 HGF(hepatocyte growth factor):肝細胞増殖因子 FGF(fibroblast growth factor):線維芽細胞増殖因子
さて拡張型心筋症の患者さんにつきまして、左室拡張が強い場合や、左室壁の中でここが悪いと判断できる場合、あるいは二次的に僧帽弁閉鎖不全が合併している場合などは左室形成術でかなり改善します。私達のデータでは待機手術ならば死亡率も5%以内で、このデータには高齢者が多数含まれるため若年者ならそれより相当良いでしょう。現在、確実にこれこれのレベルまでは良くなると読めるのは左室形成術です。
この病気の場合の難しさは、患者さんに生活の知恵がつき、調子が悪いときは休むなどして症状があまり強く出ないため、しばしば手術の時期を逸することです。ショック状態や多臓器不全の状態から手術・治療することが多く、元気になったあとで、 もっと早く決心したら良かったとよく言われます。逆に十分相談し、まだ全身状態が保たれている間に手術しますと、結果は良好ですし患者さんも楽です。ただ、拡張があまり強くない患者さん、いわゆる拘束性心筋症の傾向が強い方の場合は慎重に治療する必要があります。その場合でも僧帽弁閉鎖不全症がある場合などはそれは治した分だけ心臓も患者さんも楽になります。
再生医学のなかで、骨髄細胞移植はまだ「無いよりまし」の程度のようです。間葉系幹細胞も心筋になるのはあってもごく僅かで、主には血管新生の効果で、それはVEGF(毛細血管しか創りません)経由の効果ですから多くは期待できないと存じます。骨格筋芽細胞移植は今年か来年には臨床治験を予定していますが、この細胞は左室壁を厚くして安定させるだけのものであり、自ら仕事をするわけではないため、おのずと効果は限られます。これらは実験的に比較検討して参りましたので、多少の効果とともにその限界を強く感じております。
実験的にHGF(繊維組織を溶かし左室収縮機能だけでなく拡張機能をも改善します、これは現在のところ他に並ぶ方法がありません)やFGF(骨髄細胞移植より太い血管を新生します)を使用して細胞移植より優れた、あるいは異なる効果を私どもでは出せていますが、この臨床試験はまだもう少し時間がかかると存じます。ただこの方法は心臓の表面に「置く」だけですので、手術の後でも小切開または内視鏡的に追加できる可能性が高いと考えています。 ともあれ一度心エコー等を拝見させて戴ければより正確なことがお話できますのでご検討下さい。
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