NPO法人再生医療推進センター

再生医療相談室 回答ページ No.242


専門分野: 脳・神経・脊髄

Q: 脊髄損傷の再生治療について

 私は平成2年に受傷し、以来車椅子生活を余儀なくされております。受傷当時は「現在の医学では治療法はない」と説明されほとんど諦めておりましたが、5年ほど前に慶応大・岡野教授の研究を知り、かすかに希望を持っていました。その後、倫理面の問題などがクローズアップされ、再生医療が足踏み状態ではないかとの不安を抱いていましたが、つい先日、関西医大・中谷教授を中心とする臨床実験が始まったと聞き、思い切って投稿させていただきました。
再生医療技術を用いた脊髄損傷治療の現状と今後の展望について、ぜひ、詳しくご説明をお願いしたいです。特に、私のような慢性期の者にも治療の道は開けていくのでしょうか?
よろしくお願いを致します。

掲載日: 2006.8.30

A:

 本テーマについては、これまでに、再生医療相談室で取り上げましたが、その後の新たな情報をご紹介しながらお答えいたします。
脊髄損傷に対する再生医療は、中国で臨床応用が行われています。治療法としては、鼻粘膜から採取した細胞(具体的には、鼻粘膜から採取した嗅球の神経細胞を取り巻くグリア細胞)を骨髄の損傷部へ直接移植する方法が行われていますが、まだ実験段階であり、有効性や安全性も検証されていませんし、未解決の問題が多く残っています。
一方わが国では、2005年8月に関西医科大学医学倫理委員会で、脊髄損傷に対する再生医療の臨床試験が初めて承認されました。具体的には、関西医科大学高度救命救急センターにおいて、「急性期脊髄損傷に対する培養自家骨髄間質細胞移植による脊髄再生医療(第1相〜第2相臨床試験)」の実施が承認されました。脊髄損傷に対する再生医療の対象は、当面は急性期脊髄損傷の患者さんということになります。この治療法は、患者さん御自身の骨髄液中に含まれる骨髄間質細胞を、患者さん御自身の脳脊髄液中に投与する方法を用いるので、拒絶反応の心配が無く、免疫抑制剤も不要です。また、細胞を直接損傷部位に注入するのではなく、脳脊髄液中に投与するので、患者さんへの負担が非常に少ないという利点があります。骨髄間質細胞は神経細胞や、骨の細胞、心臓の筋肉の細胞など、種々の細胞に分化する能力があることが知られています。今回の関西医大の臨床試験は、骨髄間質細胞を神経細胞に分化させることを意図したものではなく、骨髄間質細胞の作用により、中枢神経系に残っている神経幹細胞の再生を促すことを目的としています。少し、難しい話になってしまいました。いずれにしましても、脊髄損傷に対する初めての再生医療の臨床試験であり、その成果に対する期待には大きいものがありますが、私たちとしてはあせらずに、ゆっくりと見守っていくことも大切です。
現実的には多くの慢性期の患者さんがおられます。急性期の脊髄損傷に対する再生医療の臨床応用を積み重ね、その成果が顕著になってくれば、いずれは、慢性期の患者さんにもこの治療が適用されていくことでしょう。脊髄損傷に対する再生医療は、慶応大学の岡野教授の研究室を始めてとして、多くの施設で積極的、かつ有望な研究が進められていますので、いつ、画期的な治療法が開発され、臨床応用が実現されても不思議ではありません。
私たちとしましても、患者さんとともに、期待を持って、治療開発研究の発展を見守っていきたいと思います。
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