NPO法人再生医療推進センター

再生医療相談室 回答ページ No.344


専門分野: 皮膚・毛髪

Q: 瘢痕・スカーレスヒーリングについて

 少し前に、6歳になる娘が犬に顔を噛まれ、長さ1cm幅2mmの瘢痕が2ヶ所残ってしまい、もし目立つようだったら、形成外科で修正手術するしかないと言われております。しかし、結局はまたメスを入れる事になるので、今よりも目立たなくなるだけで全く元の状態に戻るわけではないと言われ、なんとか近い将来再生医療の進歩で何とかならないものかと切に願っております。過去の質問で、現在では広範囲の火傷などでは適応されているようですが、それにしても全く元の状態に戻るわけではないと拝見しました。今、スカーレスヒーリングの研究が進んでいるそうですが、美容的な目的ではありますが、近い将来再生医療で瘢痕を消す事ができる可能性はありますか?また、分野は違うかも知れませんが、将来レーザーなどで、瘢痕(赤みや、白く平らな光った様なもの)が完全に消せるようになる可能性は考えられますか?それとも、どんなに医療が進歩しても一度できてしまった瘢痕は消す事は不可能なのでしょうか。

掲載日: 2008.6.5

A:

 顔の傷跡は大変心配なものですが、まして幼い娘さんであればなおさらのこととお察し致します。過去の回答文をご覧いただいているようですので、できるだけ重複を避けてお答え致しますが、結論としては、担当の医師からもお聞きのように、やはり瘢痕を完全に消してしまうことは今のところできないと思います。なお、以下の解説では、医学的な用語を普通の言葉で正確に言い換えるのは難しいので、専門的な用語が混じりますがご容赦ください。
皮膚などのキズ(医学用語で「創傷」と言います)が治ることを「創傷治癒(ソウショウチユ)」といいますが、その過程は非常にきれいな手術時のキズであっても、周囲に挫滅(組織がつぶれた状態)がひどいキズの場合でも、大きさや時間的な経過を別にすれば、ほぼ同じです。そして、最終的には、きれいに縫い合わされた両側の組織の間であっても、大きくえぐれたようなキズであっても、真皮や皮下組織の層は瘢痕組織で埋められ、その表面を周囲から再生してきた表皮が覆うことで治癒します。ただし、最終的な瘢痕組織の大きさは、真皮や皮下組織の欠損部の大きさによって決まりますので、きれいな手術創では最小限の細い線状の瘢痕で済みますが、挫滅が強く欠損部の大きなキズではその大きさに応じた瘢痕組織が形成されてしまいます。一般に咬まれたキズでは、周囲の挫滅もかなり強く、口の中のばい菌による感染も起こりやすいので、瘢痕は大きくなりがちです。
瘢痕の一般的な経過として、初期の頃は赤みが強く、やや盛り上がっていますが、半年くらいの経過で次第に赤みが取れ、平坦になるとともに、全体に収縮します(幅は狭く、長さは短くなります)。赤みが残っている間は、治癒反応がまだ完全には終了しておらず、瘢痕組織としてはまだ「工事中」の段階です。また、瘢痕組織は正常な皮膚に比べると弾力性が無いので、瘢痕の収縮によって皮膚が引きつったり、関節部ではキズの方向によっては瘢痕が突っ張って関節の動きが制限されたりする場合があります。
さて、ご相談の場合ですが、受傷後2ヶ月ですから瘢痕はまだ赤みが残っておりまだ工事が続いているようです。表面がテカテカと光っているように見えるのは周囲から再生してきた表皮と思いますが、まだ薄いのでそのように見えるのかも知れません。現状ではキズとしては治っていますが、瘢痕の状態はこれからも変化して、ケロイドとか肥厚性瘢痕などの病的な状態にならない限り、赤みが薄れ、表皮もしっかりしてくることが期待されます。
担当の医師からは「もし目立つようだったら、形成外科で修正手術するしかない」とのお話があったようですが、形成外科では手術以外に瘢痕をより目立たなくするような処置もあり得ますので、担当の医師と相談されて、一度形成外科を受診してみられてはいかがでしょうか。なお、このような創傷治癒や瘢痕に対する治療については、NPO創傷治癒センターのホームページ(http://www.woundhealing-center.jp/)にかなり詳しい解説がありますので、参考になると思います。
再生医療にほとんど触れていないので、少し解説を追加します。回答文の324でもふれていますが、皮膚のケガや熱傷に対する再生医療的な治療法としては、自家培養表皮や人工真皮などが用意されています。自家培養表皮の用途としては、広範囲の熱傷で植皮用の皮膚が十分採取できない場合に小さい皮膚片から大きな表皮のシートを作成して欠損部を覆うことが想定されています。また、人工真皮や人工皮膚では、皮下組織を含めた大きな皮膚欠損が生じた場合(3度の熱傷というのも皮膚全層から皮下までおよぶ深い火傷ですからこれにあたります)、通常の治癒過程では広範囲に硬い瘢痕組織が形成されてしまうところを、できるだけ真皮に類似した組織を再生させて瘢痕形成を最小限に止めるのが主なねらいになっています。
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