NPO法人再生医療推進センター

再生医療相談室 回答ページ No.419


専門分野: 脳・神経・脊髄

Q: 多発性硬化症に対する治療法

 初めて書き込ませていただきます。
私の妻は10代後半から視覚に障害が出始め、数年前に精密検査の結果多発性硬化症と診断されました。その後徐々に歩行障害や、運動障害、嚥下障害、尿失禁などが進行して、今年に入って仕事を退職しました。その経緯もあってストレスで急激に症状が悪化しています。
私は病気についての知識があまりなかったのですが、色々と調べているうちにこちらのwebsiteにたどり着きました。
妻の多発性硬化症は一般的なものではなく、恐らく日本語で慢性進行性MSと言われているものではないかと思います。
ネットで調べていてコスタリカの方で、自身の脂肪細胞から採取した幹細胞を培養して血液に戻し、脳の細胞を再生させることで、車椅子に乗っていたMSの患者さんが数ヵ月後かに立ち上がって、ハイヒールを履いて歩いている映像を見ました。真意のほどはわかりませんが、妻も藁をも掴む思いでいますので、何か自分の病気のせめて進行を食い止めるだけデモできる方法はないかと色々調べています。
現在オーストラリアに在住ですが、こちらでは白血病などの病気には幹細胞を使った再生医療は行われているようですが、MSに関してはまだ認可は下りていないようです。
長くなりましたが、質問というのは、もちろん病気事態を根治することは無理だとしても、損傷した脳細胞や脊髄の再生によって現在出ている障害が改善される可能性があるかという事です。将来的に治療法が確立されたとして、損傷を受けてから長時間たったものは再生することは不可能なのでしょうか?
妻のMSのタイプは通常のものとは異なっているようなので、臨床実験の対象として興味深いケースだとすれば、実験的にでも治療を受けられるのではないかと一途の望みも抱いています。
適切な質問かどうかわかりませんがなにとぞご協力お願いいたします。
なお、私の国籍が日本ですので、日本での治療が可能であれば帰国するという選択肢もあります。
よろしくお願いいたします。

掲載日: 2010.5.3

A:

 奥様が多発性硬化症でお苦しみのご様子、お見舞い申し上げます。
多発性硬化症の原因は、神経が情報を伝える突起(軸索)を保護しているグリア細胞が、自己免疫(免疫システムが自分自身の体の細胞を他者の細胞と誤認して攻撃する状態)によって攻撃されることで神経細胞が壊れてゆくものと考えられています。従って、治療法としては、自己免疫を抑制することと壊れた神経あるいはグリア細胞を再生させるという二つの方向から考えられており、最近有望な新薬が登場して来ている薬物療法に限らず、幹細胞を使った再生医療もその両面からのアプローチが行われています。
再生医療的な主な治療法としては、白血病の治療に類似した自己造血幹細胞移植(自己免疫を発症した免疫系を含む造血機能を一度破壊した後、自己造血幹細胞移植で新たに造血機能を作り直す方法)と、間葉系幹細胞(MSC)移植(自己の骨髄や脂肪組織などから取り出したものを血液中に投与する)などが米国を中心に臨床研究としておこなわれています。なお、後者のMSC移植が有効な理由は、必ずしも投与したMSCが神経細胞やグリア細胞に分化するというものではなく、MSCが産生する各種の増殖因子などが神経再生を助長する可能性と、MSCが免疫システムに作用して自己免疫を緩和する可能性などが考えられています。
そこで、「ネットで調べていてコスタリカの方で、自身の脂肪細胞から採取した幹細胞を培養して血液に戻し、脳の細胞を再生させることで、車椅子に乗っていたMSの患者さんが数ヵ月後かに立ち上がって、ハイヒールを履いて歩いている映像を見ました。真意のほどはわかりませんが、・・・」ということについてですが、この情報源が特定できないのではっきりした事は言えませんが、コスタリカで細胞を使った(ご覧になった情報では「脂肪細胞から採取した」とのことですが、私の見た情報では臍帯血幹細胞というのもありました)多発性硬化症の治療を行っている医師がいて、効果があった症例があったのかも知れません。
一方で、BMJ(British Medical Journal)によると、イギリスで就職していたオランダ人医師がオランダで類似の治療をした結果、患者を不当に扱ったとして処罰されたとのことです*。また、別の医学論文では、現在臨床研究として行われている幹細胞による多発性硬化症治療の現状と可能性を解説した後に、市中の医師が臨床研究に必要な検査を全く行う事なく法外な値段で類似の治療を行っていることにも注意を促しています。
*: Clare Dyer. News: Doctor is found guilty of exploiting 「desperate」 MS patients. BMJ 2010;340: c2009.
http://www.bmj.com/cgi/content/full/340/apr12_2/c2009?view=long&pmid=20385715
ということで、幹細胞による多発性硬化症は臨床研究としては実施されており、一定の効果が出ているようで、研究の結果として有効性と安全性の評価が定まれば、一般診療として行われるのもそれほど遠い未来ではないものと思われます。但し、UMIN(大学病院医療情報ネットワーク)のCTR(臨床試験登録)で検索した限りでは、登録されている3430件中に幹細胞を用いた多発性硬化症の臨床研究は見つかりませんでした。
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