専門分野:脳
Q: 脳出血と梗塞の違いは
2012年1月脳出血を発症し、後遺症に苦しめられています。杖歩行は何とかできる様になりましたが、左手は全然で日常の生活に困難をきたしています。至近アメリカベンチャー企業や各研究機関で脳梗塞慢性期の神経再生の幹細胞由来治療や新薬開発が盛んになっているようですが、ほとんどが脳梗塞を対象とした治療です。出血は似て非なるものなのでしょうか?脳梗塞に限定している治験ばかりのように感じるのですが、梗塞は治っても出血は治らないといった事があるのでしょうか?理由も含め教えてください。
掲載日: 2015.1.06
A:
脳出血も脳梗塞も脳血管障害の一種で、まとめて脳卒中という言い方もあります。前者は血管が破れるタイプ、後者は血管が詰まるタイプです。急性期の病態は異なり治療法も違いますが、結局のところ血流が障害されて神経細胞が死ぬという点では同じです。従って、慢性期にはいずれも脳の一部が無くなった状態になっており、幹細胞などを使ってこれを再生させる治療法が慢性期脳卒中の再生医療ということになります。
ご指摘のように脳梗塞に対する再生医療が先行しているのは事実と思われます。その理由が何かは推測の域を出ませんが、一つには、以前は多かった脳出血がここ50年ほどで随分減って、最近では脳梗塞の患者さんの半分から3分の1程度になっていることと、欧米ではその比率がさらに低いということです。もう一つ思い当たるのが動物モデルの問題です。脳梗塞は血管が詰まる病気なので、ヒトの脳梗塞に似た病態をラットなどで安定して作ることができるのに比べて、脳出血ではヒトに似た病態を安定して作るのが難しく、必ずしも広く行われていないのが現状と思われます。再生医療が実用化される前には動物を用いた治療実験でその効果や高価が出るメカニズムを十分に検討する必要がありますので、使いやすい動物モデルがある脳梗塞の研究がより進みやすいという背景があるかもしれません。
ただし、前にも書きましたように、慢性期の脳梗塞に対する再生医療は、失われた脳の神経細胞を再生させるものですから、これが進歩すれば、脳出血で失われた神経細胞の再生にも同じような効果が期待されるのは当然で、脳梗塞の再生医療だけが実現して脳出血のそれはいつまで経っても実現しないと考えるのは悲観的すぎると思います。
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