項 目 | 内 容 |
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専門分野 | 脳・神経・脊髄 |
質問タイトル | 「「目がある人工脳」を作り出すことに成功、視神経もあり光を検知」との発表を見ての疑問 |
質問内容 |
「Human brain organoids assemble functionally integrated bilateral optic vesicles」という研究がドイツの大学で行われ、脳オルガノイドから初期の眼球全体を作成することに成功したとの発表を見ました。 既に角膜や網膜などの多系列眼細胞が同心円状に規則正しい配向で誘導される多帯状コロニーSEAMは作成でき、一部の網膜や角膜の臨床試験は開始されているとのこと。今後、脳オルガノイドを利用した眼球全体の作成の研究は、全眼球取り替え移植や眼球細胞・組織の移植などに、どのような影響を与えますか。眼球全体の取り替えというのも視野に入ってくるのでしょうか。 |
掲載日 | 2021年10月06日 |
回 答 |
この論文(Gabriel E, et al. Human brain organoids assemble functionally integrated bilateral optic vesicles. Cell Stem Cell 28: 1-18, 2021.)は、iPS細胞から分化誘導した脳のオーガノイドからビタミンAの誘導によって一対の目ができたという研究成果を伝える論文で、インパクトファクターが20程度のジャーナル(Cell Stem Cell)に載っていますからかなり本当らしいものです。 目ができたとしても神経に繋がらないと脳で感じることはできませんから、中枢神経の情報を繋ぐ方法が確立されない限り(目も脳から分化した中枢神経です)、眼球全体の取り換えは治療手段としては成り立たないと思われます。しかし、神経に情報を伝える必要が無い角膜や水晶体などは使えるようになる可能性が高いと思います。そうなれば、自分と同じHLA型を持つ細胞の移植(他人の細胞に由来していても免疫抑制を行う必要が無い)で角膜移植(現在でも角膜移植や自己由来の細胞を用いた各種の再生医療により治療可能)や白内障の治療(現在でも人工レンズにより治療が可能)ができるようになるかもしれません。 また、神経に情報を伝えるという点でも、細胞移植のレベルでは、iPS細胞から分化した「神経網膜シート」を網膜に移植する手術が2020年の秋に神戸市立神戸アイセンター病院で行われており、その結果が注目されます。もしも、移植した網膜からの情報が脳に伝わって感じられるようになれば、iPS細胞から分化誘導された「神経網膜シート」ではなく、成熟した網膜細胞(オーガノイドとはいえ自然に形成された目から取れる)による治療が行われるようになるかもしれません。 ということで、残念ながら、中枢神経の情報を繋ぐ技術ができない限り、眼球全体ができても取り換えることは意味がありませんが、目を作る研究が進んでいるのも事実です。 (参考) (1)新時代の夜明け前に「「目がある人工脳」を作り出すことに成功、視神経もあり光を検知」2021.08.25 (2)TOCANA「試験管で誕生した人間の脳から「目」が生じ始める! 光に反応、“見えるようになる”可能性も…!?」2021.08.29 |
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