NPO法人再生医療推進センター

第12回 元気の出る再生医療

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脳の病気の再生医療 2

薬と再生医療の違い

前回パーキンソン病の再生医療では黒質(神経)細胞の再生が目標であることを紹介しました。 黒質細胞の変性(=死滅していくこと)がこの病気の原因だからです。

今回はお薬での治療と比較しながら何故再生医療が必要なのかをお話しましょう。

ドーパミンは簡単に作ることが出来ますから、お薬として飲むことが出来ます。 飲んだお薬は通常小腸で吸収され(=血液中に入ることです)、そこから血液の流れに乗って脳に届きます。 もう少し丁寧に言えば、小腸から静脈に入った薬は肝臓に行って(時に加工されます)から、心臓に行き、そこから動脈を通って体中に運ばれます。 その後、体中に届けられた薬は分解されるのもありますが最終的に肝臓か腎臓を通って体外に捨てられます。

ですから飲んだお薬の内脳に届くのはごく一部に過ぎないことが分かりますね。逆に凡そどのお薬も体中に流れて行きます。 本来届けたくない場所にも届いて何らかの“作用”をしますから、もしそれが都合の悪い作用であれば「副作用」と呼ばれます。 加工される場合(主に肝臓と血液)にはその負担をかけるのでやはりそこに「副作用」がでることがあります。 お薬を分解したり体の外に捨てる場所=肝臓や腎臓にも負担をかけます。

更に脳のお薬では少し特別な事情があります。それは体の中で「脳の血管」だけは少し特殊な構造をしていることです。 脳は「中枢神経系」とも呼ばれ、会社で例えれば社長室みたいなもので警備が厳重になっています。 血液中のお薬は血管(最後に出ていく血管は毛細血管と呼ばれ、内皮細胞が極めて薄い膜を作ってできています)から脳に出て働きます。 脳以外の毛細血管には小さな“隙間”“孔”があってお薬はそこを出入りします。ところが脳の毛細血管にはこの隙間がありません。 謂わば出入りさせるかどうかを内皮細胞が決めているのですね。因みにこの関所みたいな仕組みを「血液脳関門」と呼んでいます。

こうした仕組みを考えて頂くとお薬の限界や副作用の仕組みが理解しやすくなりますね。第一に脳に届くお薬は飲まれたうちの極一部に過ぎないことです。 再生医療では治せれば、余計な量のお薬は不要ですし、届けたくないところにお薬が行くこともありません。その意味で副作用は断然減ります。

実は、パーキンソン病のお薬として紹介しましたドーパミンは血液脳関門を通ることが出来ません。 これには対策があって、ドーパミンでなくてその材料となるドーパをお薬としています。ドーパは脳に届きます。脳の中でドーパミンを作ろうという作戦です。 これが大成功して実話映画「レナードの朝」が誕生しました!ところが当時は相当沢山のドーパを飲まなければなりませんでした。 飲んだお薬が小腸で吸収される(=血液中に入る)までに大半が分解されてしまうからです。仮に9割分解されるとすれば凡そ10倍飲まなければいけませんから。 でも安心して下さい。今はこの“分解”を止める薬がドーパに加えられています! お薬によってこの配合比率が少しずつ違いますので一番良く効くお薬にされたら良いわけです。

この様にお薬も随分工夫がされています。でもより本質的な「再生医療との違い」をお話しましょう。体の中では様々な物質が調和を取り合っています。 脳もそうです。興奮している時、のんびりしている時、考えている時、歩いている時、どの瞬間も無数の物質が調和して産生・放出されています (神経細胞から他の神経細胞に伝えられています)。この調和は生命の神秘でしょう。お薬でこの調和を達成するのは至難の業です。 パーキンソン病ではお薬の量を丁寧に調整しますがそれでもお薬が多すぎたり少なすぎたりすることがしばしば起こってしまいます。 壊れた脳の部分(パーキンソン病なら中脳の黒質細胞)が再生されれば調和が取り戻せます。お薬の飲む時間や回数の工夫が不要になります。 黒質神経細胞はドーパを必要な時に必要なだけ産生してそれを必要としている神経細胞に送っています;これを“再生”させるのです。 生命が常に行っている協調=調和は“恒常性(ホメオスターシス)”の根幹ですね。

次回はパーキンソン病再生医療の歩みをご紹介します。

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