「今後の幹細胞・再生医学研究の在り方について改訂版:科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 ライフサイエンス委員会 幹細胞・再生医学戦略作業部会(2015年8月7日 、2015年11月11日一部改正)1)」 でまとめられたiPS細胞を用いた再生医療研究のロードマップによりますと、
と記されています。本トピックス「iPS細胞の臨床研究が本格化(1)~(3)」で取上げましたiPS細胞の臨床研究の進捗とほぼ一致しています。
今回ご紹介いたしますiPS細胞からミニ肝臓も、20年に臨床開始とされています。当該ロードマップはさらに
と記載されています。
2.乳児の重い肝臓病 他家iPS細胞 ミニ肝臓(iPSC肝芽) 臨床研究計画
(実施施設)横浜市立大学医学部
横浜市立大医学部の谷口英樹教授、武部貴則教授らのグループは、iPS細胞を用いてミニ肝臓を作り、重い肝臓病の乳児に移植する臨床研究計画について、2019年夏にも再生医療提供計画を審査する慶應義塾大学特定認定再生医療等委員会に申請する予定です2)。
再生医療等の提供計画では、肝臓で有毒なアンモニアを分解できない難病OTC欠損症の乳児5人が対象です。患者さんは国内で数百人と推定されています。治療には肝臓移植が必要ですが、安全性の見地から生後数カ月経ないと臓器移植はできません。本ミニ肝臓はその間の橋渡しとなります。
現在、末期臓器不全症に対しては、臓器移植が有効な治療法として実施されています。しかし、ドナー臓器の供給は不足しており、年間数千〜万人もの方々が肝臓移植を待つ間に亡くなっている現状からしますと、新たな再生医療による技術が開発されることは、多くの患者さんを救済することに通じます。
同研究グループは、2017年、複数の企業との産学連携のもと、iPS細胞からヒトのミニ肝臓(iPSC肝芽)を、大量製造する手法の開発に成功しました3),4)。京都大学iPS細胞研究所山中伸弥教授らの確立された日本人への免疫適合性の高いHLA型をもつHLAホモドナーiPS細胞から、ミニ肝臓作製に必要な3種類(肝臓前駆細胞、血管内皮細胞、間葉系細胞)の全ての細胞および小型化した肝臓の機能を持つミニ肝臓(直径約0.15㎜)を、高い品質を確保して製造することが可能となりました。
これらのミニ肝臓を免疫不全マウス体内へ移植した結果、移植後数日で血管化された肝組織を再構成し、ヒトアルブミン分泌や薬剤代謝機能などのヒト肝臓に特徴的な機能を発揮することを実証しました。さらに、亜急性肝不全をきたすモデルマウスへ大量のミニ肝臓を移植したところ、 製造バッチにかかわらず高い精度で治療効果を示すことを見出しました。
肝臓のような複雑な臓器の組織をiPS細胞から作製するのは極めて難易度が高く、2020年度の移植を目指しています。iPS細胞を使う臨床研究で移植する細胞数は慶應義塾大学の脊髄損傷で約200万個、京都大学のパーキンソン病で約240万個、大阪大学の心不全治療の心筋は約1億個、この度のミニ肝臓では数億個となります。
同グループは、さらに大人の肝硬変の治療への活用も目指しています。肝臓の臓器全体を作るのは極めて難易度が高いですが、ドナー不足が背景にあり、肝臓の作製も視野に入れているとのことです。谷口教授は「将来的に臓器移植に代わるものにしたい」と語られています。
なお、OTC欠損症の乳児を対象にした臨床試験(治験)では、国立成育医療研究センターはES細胞(胚性幹細胞)を用い、2019年内の実施を見込んで取組まれています。同センターは、ES細胞から作った肝細胞を、生まれつき重い肝臓病のある赤ちゃんに移植する医師主導の治験を2018年3月28日付で国に申請しました5)。同細胞を使用した国内での人を対象にした研究は初めてであり、肝臓への移植は世界的にも初めてです。同センターではES細胞を肝細胞に分化して移植するのに対し、横浜市立大学では肝臓の役目を果たす組織を作成した後に移植する計画です。
(参考資料)
(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)