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再生医療用語集
No.24 再生医療トッピクス

再生医療周辺産業への期待
1.はじめに

再生医療は細胞培養、加工技術や分化・精製技術の進歩により、ES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)、あるいは脂肪組織や皮膚組織など生体の様々な組織に含まれている体性幹細胞等、さらには体細胞の加工等を用いることで、組織補充、組織再建の可能性が示されています。再生可能な組織・臓器の範囲を拡大することで、従来の治療法では根治が難しかった疾患や障害に対して、失われた機能を再生する治療が期待できます。

さらに、疾患研究をベースに、薬効評価や毒性評価の進歩により、創薬プロセスの効率化が期待できます(iPS細胞を使って、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の状態を再現して、治療薬の候補を探索する研究の結果、白血病の治療薬が有効である可能性が示されたとし、京都大学のチームが治験を開始(2019年3月26日発表)1-2)

再生医療によって、長期的な治療が求められる状況から疾患の根治の道筋がつけば、患者さんのQOLの向上並びに医療費を軽減できます。また、患者さんを治療に係わる時間的拘束から開放することで、社会復帰による経済効果も期待されます。また、再生医療関連の産業の活性化にも繋がります。同産業の発展は、再生医療の普及にも結び付きます。そこで、今回は再生医療分野について探ってみました。


2.再生医療分野の市場規模

再生医療の将来の市場規模の見通しは、今後の再生医療の発展を展望する助けとなります。幅広い疾患に対して再生医療が実施され、ES細胞、iPS細胞等の多能性幹細胞や体性幹細胞の活用を含めた将来的な市場や、糖尿病を始めとする慢性疾患を中心とした医療費の削減等、再生医療の経済効果が期待されます。政策支援による研究開発予算の増額によって基礎研究が進展し、再生医療関連法や環境の整備により、再生医療の実用化が促進することで市場規模の拡大が予測されます。国内の再生医療市場は2015年の市場規模は、約140億円で約9割が「がん免疫細胞療法」や「美容領域」等の保険外診療です。2020年以降、再生医療等製品が徐々に承認され、市場は急速に拡大し、2030年の市場規模は、約1兆1,000億円を超えると予測があります3)


3.再生医療分野の市場規模

再生医療等製品が患者さんに提供されるまでには、細胞の採取、輸送、加工・培養などのバリューチェーンとしての周辺産業の存在があります。再生医療の進展は、これら周辺産業の成長も要の一つです。再生医療や再生医療研究を支援する製品やサービスを提供する産業は、再生医療の周辺産業と呼ばれますが、この周辺産業は、再生医療製品化、先進医療・臨床研究・自由診療による再生医療、大学・研究所・企業での再生医療の基礎研究で使われる装置類・消耗品類・サービス・創薬応用等を提供しています。国内の再生医療の周辺産業の市場規模は、2012 年の時点で172 億円、2020 年に945 億円、2030 年に5,514 億円と予測されています4)。再生医療分野の産業として裾野の広がりは、取りも直さず、再生医療の進展を意味します。


4.周辺産業の実例

(株)日立製作所は、大量のiPS細胞を自動培養する装置を国内で初めて製品化したと発表しました(2019年3月11日)5)。3月8日に第1号機を大日本住友製薬(株)の再生・細胞医薬製造プラントに納入したそうです。再生医療に用いる装置に関する国内規制を初めてクリアしました。

2014年にiPS細胞を用いた加齢黄斑変性の臨床研究が行われ、重症心不全や脊髄損傷、さらにパーキンソン病の治療に関する医師主導治験が開始されるなど、iPS細胞の実用化に向けた取り組みが進んでいます。しかし、iPS細胞の培養は主に熟練者による手技で行われているのが現状であり、iPS細胞を用いた再生医療の普及のためには細胞の大量培養技術が不可欠です。

同装置は再生医療等製品の製造管理並びに品質管理の方法に関する基準であるGCTP省令注1)に適合させるために必要な機能を有する国内初の装置であり、臨床に使用するiPS細胞を大量に自動で培養することができるようです。培養容器や培地の流路には完全閉鎖系の流路モジュールを用いており、細胞の播種、培養、観察を無菌環境で行えるので、品質の高い細胞を安定的に供給することが可能とされています。研究向けの装置は既に開発されていましたが、医療現場での患者さんへの使用に対応させることが可能となりました。同装置により、品質の高いiPS細胞を安定して大量に供給することが可能となり、再生医療の普及に弾みがつきます。

大日本住友製薬はドパミン神経の変性・脱落が原因とされるパーキンソン病の治療に用いる他家iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞の実用化に向けて,京都大学iPS細胞研究所と共同で取り組んでいます。

日立製作所および大日本住友製薬は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) の再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業において、「パーキンソン病に対する機能再生療法に用いるiPS細胞由来神経細胞製剤の開発」について共同で研究を行っています4)


(用語解説)

  • 注1.GCTP省令:再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(GCTP:Good Gene, Cellular, and Tissue-based Products Manufacturing Practice)

(参考資料)

  1. 京都大学iPS細胞研究所 ニュース・イベント:筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者を対象とした治験開始について、2019年3月26日
  2. 京都大学iPS細胞研究所 ニュース・イベント:患者さん由来iPS細胞を用いた化合物スクリーニングにより、 筋萎縮性側索硬化症の治療標的分子経路を同定、2017年5月25日
  3. 株式会社シード・プランニングプレスリリース:再生・細胞医療研究の現状とビジネスの展望 -調査結果-、2016年9月27日
  4. 株式会社シード・プランニング:平成24 年度中小企業支援調査(再生医療に対する実用化・産業化に対する調査事務等)報告書、平成25年2月
  5. 日立製作所ニュースリリース:再生医療の普及に向け、iPS細胞大量自動培養装置を製品化、2019年3月11日

(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)