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再生医療用語集
No.63 再生医療トッピクス

幹細胞を心臓に噴霧、心不全の治験開始 大阪大学

重症心不全患者さんの治療法として、心筋細胞などに変化する間葉系幹細胞を心臓に直接に噴霧する「細胞スプレー法」を開発したと、大阪大学医学部澤教授らが記者会見で発表しました1)-4)。保険適用を目指し、安全性や有効性を確認する医師主導臨床試験(治験)を2021年10月までの計画で、本年11月から開始されました。冠動脈バイパス手術時に患者さん以外の方の間葉系幹細胞(他家間葉系幹細胞)が入った液体を心臓表面に噴霧することで、同細胞の働きにより、微小血管などで血液の流れが良好となり、心機能が改善する効果が見込まれています。第1相試験は対照群を含めて6人の患者さんに実施されます。


澤教授らの研究チームは、これまで患者さんの太ももから取った細胞(筋芽細胞)をシート状に作製して心臓に貼る治療を実施し、2015年に再生医療製品として条件付き承認を得ています。その後、iPS細胞から作製した心筋シートを移植する臨床研究を進めておられました。保険が適用される一般的な治療法としての実用化を目指した治験の計画が同大学から承認され、同チームは、臨床研究と並行しながら治験を進める計画です。臨床研究と治験はともに安全性や有効性を確かめるのが目的ですが、治験を早く実施すれば保険適用される治療法として実用化の時期が早まる可能性があります。ただ、シート状に加工するのに時間がかかり、急な手術に対応することが難しく、患者さんの状態によって細胞の質が変わり、細胞を加工する専用の施設が必要であることが課題でした(澤教授らの既往の取組は、当再生医療推進センターのNo.46 再生医療トッピクス 心不全などに対する再生医療等の取組(1)で紹介しています)。


こうした課題に対応するめに、澤教授らは重症心不全患者さんの治療法として間葉系幹細胞を心臓に直接に噴霧する「細胞スプレー法」を開発されました。これまでにミニブタで実験され、その有効性は確認できているということです。噴霧した幹細胞から出るたんぱく質「サイトカイン」が詰まった血管などに作用し、血管の再生や微小血管の血流の回復が期待されるとのことです。


治験の対象は、心筋梗塞などで血管が詰まり、血流が滞って心筋が傷つく「虚血性心筋症」の患者さん、6人です。心臓に噴霧する細胞には、健康な他の方の脂肪組織から採取した間葉系幹細胞を使うとのことです。3人の患者さんに血流を回復する冠動脈バイパス手術の際に、間葉系幹細胞3億個と手術用接着剤を心臓の表面に噴霧します。そして、バイパス手術のみの患者さん、3人と比較し、安全性と有効性を調べる計画です。


間葉系幹細胞には、免疫による拒絶反応が起きにくく、血管を新たにつくるよう促す物質を出す特徴があるとされています。同細胞を大量に増殖し、冷凍保存しておき、心臓の手術に合わせて解凍し、同細胞を接着剤の役割を果たす物質と混合して注射器に入れ、医師が手術中にスプレーのようにして心臓の表面に吹きかけることになります。


使われる間葉系幹細胞は製薬会社から供給されるため、細胞の加工施設がない医療機関でも実施が可能であり、噴霧自体は数十秒で完了するとしています。澤教授によりますと「一般的な外科医が使用する止血用の生体組織接着剤に混ぜて噴霧するので、極めて簡便で、技術や場所を選ばずに再生医療が可能になります。心臓を傷つけることなく細胞を移植できる方法です」とのことです。なお、心不全などに対する再生医療等の取組は当センターの再生医療トピックスNo.46-No.51で紹介しております。


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(参考資料)

  1. 毎日新聞:「細胞スプレー」で心不全の再生治療 大阪大が発表、2019年11月29日
  2. 朝日新聞: 心臓に吹きかける細胞スプレー 血流戻し機能回復を期待、2019年11月29日
  3. 読売テレビ:心不全に「細胞スプレー法」阪大が治験開始 患者の心臓表面に幹細胞を直接吹きかけ、2019年11月29日
  4. 日本経済新聞:心臓に細胞を噴霧 阪大が新たな治験開始、2019年11月29日

(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)