再生医療を国民が安全に迅速に受けられるようするために、再生医療等の安全性の確保等に関する法律の施行から5年を経ました。厚生労働省が公開している再生医療等提供計画に関する資料に基づいて、前報に引き続き、施行状況をご紹介致します。
3.再生医療等安全性確保法の施行状況について
3.1 再生医療等提供計画の状況
再生医療等安全性確保法が施行された2014年11月25日以降に、厚生労働大臣に届出がありました再生医療等提供計画の総数1)は、2015年10月頃、65件(研究に関する提供計画の届出:3件、治療に関する提供計画の届出:62件)でした。2020年3月31日現在、3,967件(研究:119件、治療:3,848件)です。その内訳を表1に示します。
2015年10月 | 2016年10月 | 2020年3月 | ||
---|---|---|---|---|
第一種 | 研究 | 1 | 13 | 14 |
治療 | 0 | 0 | 0 | |
合計 | 1 | 13 | 14 | |
第二種 | 研究 | 1 | 22 | 53 |
治療 | 0 | 48 | 528 | |
合計 | 1 | 70 | 581 | |
第三種 | 研究 | 1 | 16 | 52 |
治療 | 62 | 2226 | 3320 | |
合計 | 63 | 2242 | 3372 | |
合計 | 研究 | 3 | 51 | 119 |
治療 | 62 | 2270 | 3848 |
提供計画の件数においては、第三種再生医療等が治療では88%を占めます。また、第二種再生医療等の治療件数は2016年に比べて11倍と、大幅に増加しています。
3.2 第二種再生医療等で治療に用いられた細胞等について
次に、第二種再生医療等の治療に関する提供計画528件について、使用されている細胞等について表2にまとめました。脂肪幹細胞、多血小板血漿および真皮繊維芽細胞で全体の96%を占めます。脂肪幹細胞は脂肪細胞の中に含まれる神経や血管系などの細胞・組織へ分化する能力をもつ幹細胞ですが、ホーミング効果、抗炎症作用、免疫抑制作用、臓器修復に寄与する肝細胞増殖因子や血管内皮増殖因子などの成長因子があるとされ、体への負担が比較的少なく、安全性が高くさまざまな疾患の治療に使用されています。
細胞等の名称 | 比率注1) | 細胞等の解説 |
---|---|---|
脂肪幹細胞 | 44.2 | 脂肪細胞の中に含まれる神経や血管系などの細胞・組織へ分化する能力をもつ幹細胞で、ホーミング効果、抗炎症作用、免疫抑制作用、臓器修復に寄与するHGF(肝細胞増殖因子)やVEGF(血管内皮増殖因子)といった成長因子(再生促進因子)の産生が多いとされています |
多血小板血漿 (PRP比率注2)) | 42.1 | 血液から血小板を濃縮することにより得られ、血小板に含まれる活性の高い成長因子を多く含み、組織を修復することができるとされています |
真皮線維芽細胞 | 9.8 | 肌の真皮に存在し、肌を形成するヒアルロン酸、コラーゲン、エラスチンなどを生成する細胞です |
表皮組織 | 0.9 | 再生医療技術として培養表皮を用います |
骨髄幹細胞 | 0.6 | 骨髄内に存在する多様な細胞に分化できる幹細胞で、ホーミング効果、神経栄養因子による神経栄養保護作用、血管新生作用による脳血流の増加、神経再生作用があるとされています |
骨膜細胞 | 0.4 | 培養骨膜細胞を用いた骨再生療法は、骨を作る細胞を培養で増やし、それを骨がなくなった部分に移植し、骨を再生させるものです |
末梢血単核球細胞 | 0.4 | 末梢の血液から血管内皮前駆細胞を含む末梢血単核球を採取し、これを手足に注射することによって、末梢血管の再生を図ります |
SVF注3) | 0.4 | 脂肪組織に酵素処理や遠心操作をすることによって得られる間質血管細胞群という細胞で、成長因子の分泌、血管新生、組織再生能力の増強などの能力を持つとされています |
その他:脂肪移植/非培養脂肪移植/軟骨/歯髄幹細胞等 | 1.2 | 歯髄幹細胞:歯髄から得られる間葉系幹細胞です |
注1.比率:再生医療等提供計画1)において、使用されている細胞等の総件数に対する割合
注2.PRP: Platelet-rich plasma
注3.SVF: Stromal Vascular Fraction
3.3 第二種再生医療等で治療に用いられた細胞等と適用疾患について
使用されている細胞と対象とする疾患の関係を表3に記しました。脂肪幹細胞は脳梗塞、脊髄損傷、肝障害等、動脈硬化等、糖尿病、認知症、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病などの治療に使われています。
細胞等 | 対象疾患等 |
---|---|
脂肪幹細胞 | 関節症(変形性関節症、変形性膝関節症、関節内組織損傷等) アトピー性皮膚炎、脳梗塞、脊髄損傷、肝障害等 動脈硬化等、糖尿病、慢性疼痛、認知症 筋萎縮性側索硬化症、自己免疫疾患、重症下肢虚血 パーキンソン病、神経変性疾患、リンパ浮腫 難治性呼吸器間質疾患、関節リウマチ、サルコペニアなど |
多血小板血漿(PRP) | 関節症(変形性関節症、変形性膝関節症、関節内組織損傷等) 整形外科疾患 皮膚の加齢変化、不妊治療、スポーツ障害、角膜疾患など |
真皮線維芽細胞 | 真皮萎縮症、皮膚再生、頭髪改善、皮膚醜形治療など |
培養表皮組織 | 熱傷、瘢痕、にきび痕、潰瘍、母斑、又は白斑など |
骨髄幹細胞 | 脳卒中、脊髄損傷など |
軟骨細胞 | 皮膚陥凹変形の治療など |
骨膜細胞 | 歯槽・顎骨の治療など |
末梢血単核球細胞 | 血管再生など |
SVF | 整形外科疾患、関節症など |
その他:培養脂肪移植/非培養脂肪移植/歯髄幹細胞等 | 乳房組織欠損治療、歯槽・顎骨の治療など |
3.4 第二種再生医療等における適用疾患と使われている細胞等
第二種再生医療等による治療対象として提供計画に記載されている疾患はおよそ53種類ほどです。表4に対象疾患とその治療に用いられる細胞についてまとめてみました。
疾患 | 使用される細胞等 | 比率(%)注4) |
---|---|---|
関節症等注5) | PRP、脂肪幹細胞、SVF | 45.1 |
真皮萎縮症 | 真皮線維芽細胞 | 9.2 |
アトピー性皮膚炎 | 脂肪幹細胞 | 4.9 |
不妊治療 | PRP | 4.7 |
肝障害等 | 脂肪幹細胞 | 3.8 |
整形外科疾患等 | PRP、脂肪幹細胞、SVF | 3.4 |
慢性疼痛 | 脂肪幹細胞 | 3.4 |
皮膚加齢変化 | PRP、真皮線維芽細胞、脂肪幹細胞 | 3.4 |
皮膚陥凹変形 | PRP、真皮線維芽細胞、軟骨細胞 | 2.8 |
脳梗塞等 | 脂肪幹細胞、骨髄幹細胞 | 1.9 |
脊髄損傷等 | 脂肪幹細胞、骨髄幹細胞 | 1.3 |
動脈硬化等 | 脂肪幹細胞 | 1.0 |
スポーツ障害等 | PRP、脂肪幹細胞 | 1.0 |
認知症注6)/筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン病/糖尿病/自己免疫疾患/角膜疾患/慢性肺疾患/慢性腎臓病/乳房組織欠損/更年期障害/頭髪改善、その他 | 脂肪幹細胞(角膜疾患:PRP) | 14.1 |
注4.第二種再生医療等提供計画に記載されている対象疾患の総件数に対する割合
注5.関節症等(変形性関節症、変形性膝関節症、関節内組織損傷等)
注6.認知症(アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症)
(参考資料)
(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)