毎日新聞社は2018年12月9日、社説で「幹細胞の再生医療応用 安全性と効果の見極めを」と投げかけました。以下は、同新聞社の社説を引用したトピックスです1)。
さまざまな細胞に変化できる幹細胞を利用し、病気や事故で傷ついた細胞や組織を治療する再生医療の実現に向けた動きが相次いで出てきた。
京都大は10月、iPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った治療用の細胞をパーキンソン病の患者の脳に移植する治験を始めた。慶応大は11月、脊髄(せきずい)損傷の患者を対象とした臨床研究計画を学内審査機関が承認した。これとは別に、厚生労働省は幹細胞を利用した脊髄損傷のための「再生医療製品」の製造・販売を認める見通しだ。
いずれも、これまで根治療法がなかっただけに、期待は大きい。患者にとっては一歩前進だろう。一方で、治験や臨床研究は安全性の確認が主な目的であり、再生医療製品も効果の確認はこれからだ。過剰な期待はせず、慎重に安全性や有効性を確かめたい。それぞれの治療の長所・短所をきちんと評価し、見極めることも大事だ。
脳内の特定の神経細胞の減少で起きるパーキンソン病は、手足を動かしにくくなったり、震えが起きたりする疾患で、国内に約16万人の患者がいる。研究チームは京大が作製・備蓄している他人由来のiPS細胞から作った神経のもとになる細胞を移植。これが患者の脳で神経細胞となり、欠けている物質を出して症状を緩和するのがねらいだ。
慶応大も、他人由来の備蓄iPS細胞から神経のもととなる細胞を作り、脊髄損傷から2-4週間経過した患者4人の損傷部位に移植する。これらはいずれも、未熟な細胞を使うため、腫瘍化するリスクは見逃せず、十分な経過観察が欠かせない。また、両者とも拒絶反応を防ぐために免疫抑制剤の投与が必要となり、その副作用にも注意がいる。
一方、脊髄損傷の「再生医療製品」(守屋注:札幌医科大学本望教授、ニプロ株の共同開発)は、患者の骨髄液から幹細胞を採取し、培養して患者の静脈に戻すことで機能改善をめざす。自分の細胞を使うため免疫抑制剤は不要で、がん化のリスクも低いと見られるが、有効性は未知数で、これを確認するのが今後の課題だ。
再生利用の実用化には期待がかかるが、医療費が高額になることも懸念されている。医療費をどう抑えていくかの検討も、技術開発と併せて必要だ。
(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)
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