本再生医療推進センターの再生医療トッピクスNo.86で、京都大学iPS細胞研究所の井上教授らの研究グループが、アルツハイマー病などの認知症の原因とされる異常化したたんぱく質、タウの蓄積を抑える点鼻ワクチンを開発されたことをご紹介しました。東京医科歯科大学の岡澤教授らの研究グループがアミロイド仮説注1)を修正する新たなアルツハイマー病態仮説を発表されました(2020年1月22日)。興味深く、そこで当該研究を再生医療トピックスで取上げました。
併せて、アミロイド抗体を用いた臨床試験に関して、エーザイ(株)とバイオジェン社はアルツハイマー病治療薬候補であるアデュカヌマブが米国食品医薬品局に優先審査の指定を受けたことも記しました。また、アルツハイマー型認知症に対する再生医療等提供機関及び再生医療等の名称についても取上げました。
また、次回以降の再生医療トピックスで、うつ病の引金物質を確認したとする東京慈恵会医科大学の研究、そして統合失調症患者・双極性障害患者においてセロトニン関連遺伝子にDNAメチル化変化が起きていることを確認したとする熊本大学および東京大学の研究についてご紹介する予定です。
細胞の内部や外部に異常タンパク質が蓄積することが、アルツハイマー病を初めとする神経変性疾患の病理学的な特徴とされています。アルツハイマー病では、細胞外にアミロイドβ注2)と呼ばれる異常ペプチドが沈着する老人斑と、細胞内にタウタンパク質が凝集する神経原線維変化の2つが起こることが知られています。
今までに、数多くの治療法が取組まれてきましたが、十分な有効性を示す開発はありませんでした。アミロイドβに対する抗体医薬品の臨床試験が国際的な規模で行われてきました。臨床試験の結果、脳内のアミロイドβの除去はできましたが、患者さんの症状の改善は認められませんでした。これらの臨床試験などの結果から、発症後から治療を開始するのでは遅く、発症前にアミロイドβ抗体療法を始める、あるいは、脳内の細胞外アミロイドβ凝集が起きる前の早期に生じる脳内分子変化を解明して、新たな分子標的に対する治療を開発する必要があると考えられるようになってきました。
ただ、アミロイド抗体を用いた臨床試験で、エーザイ(株)とバイオジェン社は、2020年8月7日、アルツハイマー病治療薬候補であるアデュカヌマブ注3)について、バイオジェンによるBiologics License Application(BLA:生物製剤ライセンス申請)が米国食品医薬品局に受理されたことと発表しました1)。当該申請は、優先審査の指定を受け、審査終了目標日は2021年3月7日に定められましたとしています。承認された場合、アデュカヌマブはアルツハイマー病治療薬の臨床症状の悪化を抑制する初めての治療法となり、かつアミロイドβの除去が臨床結果の改善をもたらすことを初めて実証した薬剤となります。
東京医科歯科大学難治疾患研究所/脳統合機能研究センター神経病理学分野の岡澤教授の研究グループは、東京都健康長寿医療センター、名古屋大学、自治医科大学、慶応義塾大学、国立精神神経医療研究センター、国立シンガポール大学、バロー神経学研究所などのグループとの共同研究で、アミロイドβ細胞外凝集の出現前の超早期段階に生じる細胞死が、その後のアルツハイマー病態進展の鍵を握ること、また、この細胞死を標的とする治療法(発症後にも適応可能)の開発が可能であることを実験的に示すことができたと発表しました2)(2020年1月22日)。
HMGB1注4)はネクローシス注5)というタイプの細胞死を起こした時に放出されることが知られています。同研究グループが患者さんの髄液中のHMGB1を測定したところ、アルツハイマー病として診断される時期の髄液よりも、軽度認知障害(MCI)の時期の患者さんの髄液の方が、HMGB1がより高い値であることが明らかになりました。このことは、発症前にすでに細胞死が起きていることを示唆しています。
これらを踏まえ、アルツハイマー病の2種類のモデルマウスを用いて、当該研究で開発したpSer46MARCKS抗体で進行中の神経細胞ネクローシスを検出する技術によって、現在進行形のネクローシスを定量したところ、認知機能障害を起こすより前に、なおかつ、細胞外アミロイド蓄積が見られる前から、ネクローシスが盛んに起きていることが明らかになりました。そして、進行中ネクローシスは、発症前にピークがあるものの、発症後にも続いているということも示唆されました。
また、ゲノム編集技術を用いてアルツハイマー病遺伝子変異を導入したヒトiPS細胞をから分化作成したヒト・アルツハイマー病ニューロンの詳細な観察から、このようなネクローシスは細胞内アミロイドがYAP注6)と呼ばれるタンパク質を巻き込んで、YAPの細胞生存維持作用が奪われるために生じる新しいタイプのネクローシス(TRIAD)であることを明らかにしました。加えて、同研究ではネクローシスを引き起こすYAP機能障害を正常化する目的で、遺伝子治療によるYAP補充をアルツハイマー病モデルマウスに対して行ったところ、TRIADネクローシスの抑制、認知機能改善および細胞外アミロイド蓄積の抑制が観察されたとしています。
当該研究により、
などが明らかにされました。
厚生労働省のウエブサイトから、再生医療等提供機関の名称や再生医療等の名称が確認できます。確かめられる内容は、
などです。
以下は、同ウエブサイトからアルツハイマー型認知症に対する再生医療等提供機関及び再生医療等の名称を記載したものです(2020年8月18日現在)。研究及び治療共に自家脂肪幹細胞が利用されています。治療等に関する情報は、各医療機関が提出された提供計画にある説明文書や同意書などで知ることができます。
(y. moriya)
プライバシーポリシー
再生医療推進センターは再生医学、再生医療の実用化を通して社会への貢献を目指す非営利活動法人です。
Copyright © NPO法人再生医療推進センター All rights reserved.