パーキンソン病の患者さん3例に対して自己脂肪組織由来幹細胞治療の結果が報告されましたので紹介します1)。
上図:正常(左図)およびパーキンソン病(右図)でのドパミン作動性経路の流れ。青の矢印は標的への刺激、赤の矢印は標的への抑制を示す。(ウイキペディア:パーキンソン病より転載)
パーキンソン病注1)は手足が動きにくくなる進行性の脳の病気で、幾つかの薬があるものの、病気の進行を止める方法はまだ見つかっていません。パーキンソン病の再生医療では、iPS細胞から作ったドーパミン分泌細胞を患者さんの脳に移植する治療研究が既に日本でなされています2)。
今回の間葉系幹細胞治療では患者さん本人の皮下脂肪を少量採取した後に幹細胞を分離培養して増やし、幹細胞を分化させずに点滴で投与しています。一方、iPS細胞を用いる場合は癌化しないように、また拒絶反応が起こらないように注意しなければなりません。左右の脳(線条体と呼ばれる部位)に2回手術して投与する点(定位脳手術と呼ばれる手術です)も点滴投与とは異なります。自己脂肪組織由来幹細胞では、拒絶反応が起こらず繰り返し安全に静脈投与することができます。
報告によれば3例、各5回か6回、計17回の投与で、副作用はありませんでした。MDS-UPDRS注2)と呼ばれるパーキンソン病の症状評価では3例とも全てのパートで改善しました(MDS-UPDRSは4つのパートからできています)。
著者らは対照群のない小数例の結果であるから効果判定には十分注意するように述べています。自分自身の幹細胞を培養して点滴で戻すことには特に副作用がなく、もしそれで神経難病の治療ができるようになれば画期的です。
この間葉系幹細胞治療で効果が期待されている疾患には、パーキンソン病だけでなく、ALS(筋委縮性側索硬化症)、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、アルツハイマー病など幾つもの“難病”が含まれます。自己脂肪組織由来幹細胞の作用機序として、①神経細胞保護、修復作用、②抗炎症作用、③脳内に沈着した異常蛋白を除去する作用、④神経細胞に分化し欠損した神経細胞の機能を補填する作用、などを考察しています。
(adipocyte + neuron / 20211101)
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