再生医療相談室

No.133 再生医療トピックス

【日本再生医療学会だより】・・・認知症治療最前線!

第22回日本再生医療学会が3月23日~25日京都国際会議場で開催されました。脂肪組織由来幹細胞の発見が2001年、ヒトES細胞の樹立が1998年ですから、幹細胞とともに発展してきた学会です。2006年、ヒトiPS細胞の作製は大きなインパクトでした。

再生医療は研究段階から臨床応用に、つまり、病気の治療へと歩みを進めています。

ヒトiPS細胞の臨床応用は、

など、目覚ましいものがあります。

間葉系幹細胞の分化能はiPS細胞に比べてかなり弱く、現在まで臓器や組織の作成には成功していないようです。一方で、間葉系幹細胞には次のような特徴が知られています。

様々なサイトカイン、栄養因子を分泌する。証明されているものを列挙します。

そこで、間葉系幹細胞が治療に有効である理由として考えられる機序は、

加えて、幹細胞には病巣(病気になっている場所)に集まる性質(homing effect)が知られています。

再生能が万能でない為に、幹細胞のままヒトに投与しても安全です。残念ながら、iPS細胞をそのままヒトに投与することはできません。分化能が非常に強いため、腫瘍(特に奇形腫)を作ってしまいます(小保方氏らがSTAP細胞の発見を報告した時、その”万能性”を証明するものとしてこの奇形腫が出来たことを報告していましたね)。

間葉系幹細胞は、脂肪組織、骨髄、歯髄など様々な組織から採取できます。採取の容易さ、安全性の高さ、侵襲性の低さから、脂肪組織由来幹細胞の臨床応用が進んでいるようです。他家(他人の幹細胞)では、長期的にみて拒絶反応が懸念されますが、自家(患者自身の幹細胞)ではその心配はありません。癌化、腫瘍形成もありません。

そこで、今回の【学会だより】では、「自己脂肪組織由来幹細胞の点滴投与で認知機能が改善した」という山岸(府立医大)、出野(タカラバイオ)、小森(なぎ辻病院)らの発表を紹介します。

認知機能障害を認めた14例で、自己脂肪組織由来幹細胞の点滴を約1月毎6回行って認知機能障害の程度を観察しました。途中多少の変動はあったものの、6回投与後の認知機能評価は投与前に比べて全例で改善、4例では”正常”と見做せるまで改善が見られました。アミロイドPETの投与前、投与後比較では、75%の症例で、投与後脳内アミロイド沈着の減少を認めました。更に、4例で血中アミロイドバイオマーカーを調べた結果、全例で投与後上昇、この解釈としては、計算式中分母となる血中アミロイドβ1-42が減少したためと推定しました。幹細胞がアミロイド沈着を減らすだろうことは以前から指摘されていましたが、ヒト脳および血液でその変化を示した世界初の報告です。更に、彼らは、彼らが投与した幹細胞がネプリライシン活性(アミロイド分解酵素)を持っていることを全例で確認しています。アミロイド抗体薬の開発が進んでいますが、アミロイド除去する能力は抗体薬の方が強いようです。しかし、強力な為でしょうか、アミロイド抗体薬ではARIA(アミロイド関連画像異常)と呼ばれる脳浮腫や脳出血が生じることが報告されています。脂肪組織由来幹細胞ではその報告はありません。抗体薬の効果は認知症発症の初期、出来たら発症前(前駆期)に限られています。また、認知機能を改善することはありません。認知症は進行していきます。その進行の割合が僅かに減る(レカネマブの場合、対照群:投与群=-1:-0.73)様ですが、プラスに転じることはありませんでした。アミロイド沈着が認知症の原因かどうかの結論はまだ分からないのですが、仮にアミロイド沈着が原因としても、20年も前から溜まっているアミロイド沈着を”20年後に除去”してもそれだけでは治療には繋がらないのかも知れません。一方で幹細胞はアミロイド分解だけでなく神経細胞や髄鞘、血管にも作用します。先に紹介した、homing作用(病変に集まる性質)も治療効果の原因になっていると考えられます。

アミロイド除去だけが、治療効果の原因でないもう一つの証拠として、山岸らは、アルツハイマー病だけでなく、ALS、パーキンソン病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)にも効果があったとしています。

なぎ辻病院によれば、同院での治療実績は(2023年2月14日時点で)下記の通りだそうです。

本望(札幌医大)らは脊髄損傷に対する間葉系幹細胞治療で目覚ましい成果を示し、ついに2019年保険収載されました。脳梗塞に対しても再生医療の取り組みが進んでいます。まだ解明しなければならない課題は山積していますが、治療方法がまだ無い難病に対して再生医療の光が届くようになることを祈念しています。

(neuron / 20230325)