再生医療相談室

No.132 再生医療トピックス

再生医療の安全性

間葉系幹細胞、特に患者さんご自身の組織から採取した幹細胞の再生医療は安全性が高いと考えられています。それ自体は揺るいでいません。ところが、その”審査”に問題があることが指摘されましたので紹介します。

日本の再生医療は、再生医療等安全性確保法(2014年施行)に従って実施されています。この法律の趣旨は【再生医療等の迅速かつ安全な提供等を図るため、再生医療等を提供しようとする者が講ずべき措置を明らかにするとともに、特定細胞加工物の製造の許可等の制度等を定める】ものです。

再生医療等について、人の生命及び健康に与える影響の程度に応じ、「第1種再生医療等」「第2種再生医療等」「第3種再生医療等」に3分類して、それぞれ必要な手続を定めています。

このリスクが「中レベル」に分類される第2種再生医療のうち、約4分の1は、その治療法が安全だという根拠に乏しいという研究結果が発表されました(Stem Cell Reports, 10 Feb 2023, :S2213-6711(23)00016-4 DOI: 10.1016/j.stemcr.2023.01.013 PMID: 36827977)

この研究結果について、国立がん研究センターのプレスリリースでは次の様になっています。

【国立がん研究センター生命倫理部 部長 一家綱邦と京都大学 iPS細胞研究所上廣倫理研究部門 特定教授/高等研究院 ヒト生物学高等研究拠点 主任研究者 藤田みさおを中心とする、静岡社会健康医学大学院大学、東京学芸大学等との研究チームは、再生医療を実施する際に遵守する「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(以下、再生医療法)」に基づき、当該再生医療等提供計画の審査を行う特定認定再生医療等委員会(以下、委員会)の設置・運用方法等の課題を調査し、関連法規等と比較しながら包括的に分析・検証を行いました。その結果、独立・公正な審査を期待できない委員会が存在すること、また当該委員会による審査に基づき承認された治療計画の中に安全性の科学的根拠や医師の専門性に疑義が認められるものが一定数あること、さらに誇大広告等不適切な広告によって患者さんの理解や治療選択が誤導される恐れがあることが、具体的かつ定量的に明らかになりました。】

研究結果は同じプレスリリースによれば下記の通り:


1.治療計画の安全性の科学的根拠の有無を調査

第二種再生医療等の治療計画351件と添付された文献2495件を対象に、当該治療計画が治療としての安全な実施を裏付けるだけの科学的根拠に基づいているかを調査しました。主な調査結果として、(1)添付文献が確認できなかった計画:20件(5.7%)、(2)添付文献の内容が判別不能だった計画:15件(4.3%)、(3)Predatory Journal (いわゆるハゲタカ・ジャーナル(*見分け方の例を後述します))掲載論文を引用した計画:8件(2.3%)、(4)安全性を確認できる臨床研究論文の引用なし(細胞と対象疾患についての不一致、結論が安全性証明せず等)の計画:45件(12.8%)があることを確認しました。すなわち、合計88件(25.1%)の計画に安全性の科学的根拠に疑義が生じる結果となりました。

2.治療計画に関与する医師の専門性を調査

第二種再生医療等の治療計画391件を対象に、当該計画が治療対象とする疾患等とその治療を実施する医師の専門性とが適合するかを調査しました。主な調査結果として、両者の間にミスマッチがあることが「強く推定される計画55件(14.1%)」、「推定される計画62件(15.9%)」があることを確認しました。すなわち、合計117計画(30.0%)に対象疾患等と医師の専門性にミスマッチがあることを確認しました。

3.公開されている説明文書を調査

第二種再生医療等の治療計画371件を対象に、計画名と説明文書の内容を調査しました。その結果、(1)371件の治療計画のうち241件(65.0%)は、他に全く同一の名称の計画があること、(2)同一名称の治療計画の間では、説明文書の内容も同一であると判断できること、(3)いくつかの計画の説明文書については、ファイル作成者名が同一であることが明らかになりました。このことから国内の多くの再生医療等提供機関の間で、説明文書ひいては治療計画の複製利用が行われていることが推測されました。さらに、(4)複製利用される治療計画は、特定少数の委員会で審査を受けていること、つまり、審査を受ける委員会の選択をめぐって偏りが生じていることが明らかになりました。

4.独立・公正な審査を期待できない三者関係を調査

委員会審査の不自然な偏りについて、その理由・背景には、審査を受ける再生医療等提供機関と審査をする認定再生医療等委員会を結びつける企業(X)があることを、インターネット上の情報に基づいて4つのケースで確認しました。すなわち、(4つのケースで異なる)企業Xは、一方で再生医療等提供機関に対して再生医療等提供計画の作成・実施を支援し、他方では認定再生医療等委員会の運営に関与し、その委員会で自らが支援する再生医療等提供機関の治療計画を審査させていることが推測されました(図1)。この三者関係下では、再生医療法施行規則が求める独立・公正な審査を期待できない恐れがあります。


再生医療では、その安全性を確保するため、法律によって審査を受け厚生労働省に届け出ることが義務付けられています。ところが、安全性がきちんと評価されずに、この審査をすり抜けてしまう、或いは審査体制に問題がある事例が少なからず存在すると考えられるという指摘です。審査を受ける側と、審査する側が”仲間”であっては公平な審査とは言えないでしょう。ただ、ここで述べているのは、論文の表題「Difficulties in ensuring review quality performed by committees under the Act on the Safety of Regenerative Medicine in Japan.」(日本の再生医療等安全確保法に従って行われている委員会の審査で安全性が確保されているか疑問である(私訳))ということであって、再生医療自体が安全でないと言っているのではありません。安全な再生医療を受けて頂くために、受診を考えられている医療機関とその再生医療計画を審査した委員会の情報を出来る限りきちんと調べられることが必要になるかも知れません。

審査で認められ、厚生労働省に届けられている再生医療は、厚生労働省のホームページで確認できます。同じページに審査を実施した認定医療等委員会の名称が分かります。


*論文が“ハゲタカジャーナル”かそうでないかの見分け方(一例)

PubMedで検索出来れば概ねきちんとした論文であると見做せるでしょう(ご参考まで)。

(neuron / 20230308)