幹細胞は組織に応じた細胞に分化できる能力と、自らを複製する能力を有しています。幹細胞には、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、体性幹細胞(成体幹細胞、組織幹細胞)などが知られており、再生医療に適用されています。
骨髄幹細胞は1960年代に発見され1)、現在、第二種再生医療として国に提供計画が届けられ、研究及び治療が進められています2)。脂肪由来幹細胞は、2001年に脂肪組織中の間葉系幹細胞として発見されました3)。骨髄幹細胞と同じく、第二種再生医療として、治療で多くの医療機関で用いられています2)。iPS細胞は、京都大学の山中伸弥教授によって、2006年にその作製が発表されました4)。2010年には東北大学の出澤真理教授によって新たな幹細胞が発見され、これをMuse細胞(Multi-lineage-differentiating Stress Enduring Cell)と名付けました5),6)。
人の皮膚や骨髄などの中に、いろいろな組織や臓器に成長する能力を持つ新たな「多能性幹細胞」があることを、東北大大学院医学系研究科の出澤真理教授(再生医学・幹細胞生物学)らの研究グループが明らかにしました5)。同幹細胞は体内に存在し、遺伝子操作などの必要がなく、患者さん自身の細胞を使った新たな再生医療の実現が期待されます。
研究グループは、皮膚由来のヒト線維芽細胞や骨髄由来の骨髄間葉系細胞に長時間、低酸素や栄養がないなどのストレス条件を与えて細胞を濃縮し、これを浮遊培養したところ、人のES細胞とよく似た細胞の塊が形成されました。最初は時間と共に増殖しますが、10~14日程度で成長は停止し、無限に増えることはないとのことです。特別な処理を加えると、5代先まで自己複製できることが確認されています。ゼラチンで培養しますと、神経や平滑筋、肝臓などへ分化できることも確認されています。
iPS細胞の作製には遺伝子操作などの操作が必要であり、過剰に増えて腫瘍化するなどの課題がありますが、Muse細胞にはこの問題はないとのことです。加えて、目的とする細胞に分化誘導する必要がなく、そのまま静脈内に投与するだけで傷害部位に遊走、集積し、生着して組織を修復するという特長を有しているとされています。出澤教授は「ES細胞やiPS細胞に取って代わるものではないが、生体内にあるという性質を利用すれば今後、自己細胞治療などさまざまな利用方法が出てくるだろう」と話されています。
1)心筋梗塞:Muse細胞 ヒト骨髄由来 静脈内投与 臨床試験
体のさまざまな組織の細胞に変化するとされているMuse細胞を使って、心筋梗塞を起こしたウサギの心臓の機能を改善させることに成功したと、岐阜大学と東北大学のグループが発表し、今後、企業が中心となって臨床試験が進められます7),8)。岐阜大学と東北大学の研究グループは2018年3月6日、記者会見を開き、体のさまざまな組織の細胞に変化する能力があるとされているMuse細胞を、急性の心筋梗塞を起こしたウサギの血液中におよそ30万個投与したところ、2週間ほどで心臓の機能が改善したと発表しました。同グループによりますと、この特殊な細胞は体内に存在し、大量に増やして投与すると、傷ついた細胞からのシグナルを受け取って集まり、心臓の筋肉や血管に変化して修復したとのことです。この成果などをもとに企業が中心となって臨床試験が進められており、2018年中に心筋梗塞の患者6人に投与するということです9)。東北大学大学院の出澤真理教授は「体に備わる修復機構を最大限に活用した『修復医療』という考え方を提示していきたい」と話されています。
2) 脳梗塞:Muse細胞 ヒト骨髄由来 静脈内投与 臨床試験
(株)生命科学インスティテュートは、脳梗塞患者さんを対象としたMuse 細胞製品(CL2020)の探索的臨床試験を東北大学病院にて2018年9月中旬から開始することを発表しました10)。脳梗塞を含む脳血管障害(脳卒中)は日本における入院原因の第2位であり、さらに要介護となる原因の第1位(介護保険で、介護が必要となった原因の2割弱)とされています。これまでに実施した脳梗塞モデルを用いた動物試験では、CL2020 の静脈内投与により、運動機能障害の改善効果を示すことが確認されたそうです。Muse 細胞製品「CL2020」としては、前記の2018年1月に開始した急性心筋梗塞に次ぐ、第二の対象疾患の探索的臨床試験となります。CL2020 は、傷害を受けた神経回路を修復することで運動機能障害を改善する可能性があり、脳梗塞治療の新たな選択肢になり得るとしています。
(参考資料)
(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)
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