No.52再生医療トッピクスでiPS細胞からミニ多臓器の作製(ミニ肝臓の研究に基づいてミニ肝臓、胆管、膵臓を同時に作製)についてご紹介しました。人の臓器作製の関連で、ここでは動物の体内で人の臓器を作る研究について取上げました。
1型糖尿病は、インスリンを産生する膵β細胞が自己細胞によって破壊されることで発症する疾患です。膵β細胞は膵臓の膵島にあります。膵島移植は膵島を分離して移植する治療法で、1型糖尿病患者をインスリン治療から解放する根治療法です。しかし、膵島移植には膵島を提供するドナーの不足という課題があります。そこで、この課題を解決する新たな治療法として「異種移植」による膵島移植の開発が世界中で取り組まれています。動物の臓器や細胞を人に移植する異種移植の研究は数十年前に始まり、現在は実現まであと一歩のところにきていると言われています。欧米では既に臨床研究が始まっており、治験や製品化の動きも出てきています1)。
こうした状況の中、iPS細胞を使って動物の体内で人の臓器を作る東京大学中内特任教授らの研究計画を柴山文部科学省大臣は承認しました(2019年8月21日)2)。中内特任教授はスタンフォード大学教授を兼任し、研究規制がない米国で人間の膵臓を持つ羊を作製する研究を進めてきた実績があります。またラットの体内でマウスの膵臓を作り、糖尿病になったマウスに移植し治療にも成功されています3)。
同研究チームは、東京大学内の倫理委員会に研究計画を申請し、承認された後に、6月下旬に文部科学省に同計画を申請し、同省の専門部会の了承を受け、同省大臣は当該研究実施を正式に承認しました。同研究チームは国の手続きを終え、ネズミの体内で人のiPS細胞から膵臓を育てる研究を始める予定です。将来的には臓器の大きさが人に近いブタなどでも研究を進め、臓器移植に役立てたいとの考えです。臓器提供が不足する現状、動物の体内で作った人の臓器を移植に使う手法は、海外では新たな治療として研究が進んでいます。なお、2019年7月24日に開催された文部科学省の専門部会の議論では「研究実施状況についてこまめな報告を求めるべきだ」などの慎重な意見が出たものの、大きな反対意見はなかったということです4)。
研究を進めるためには、人と動物の細胞が混ざった「動物性集合胚」注1)を扱うことになります。我が国ではこれまで倫理的観点や感染症の懸念などから動物の胎内に入れることが禁止されていました。文部科学省が関連指針を改正することで、機関内倫理審査委員会による審査を経て、同省に届出を行うことなどの手続きを経れば当該研究ができるようになりました。ネズミなどの小型動物の体内で人の細胞の臓器が正常にできることが確認できれば、将来的には人の臓器の大きさに近いブタやサルを使い、ヒトへの移植に使える可能性があります。
中内特任教授らのチームの研究計画では、遺伝子を操作し、膵臓ができないマウスやラットの受精卵を作り、人のiPS細胞などを注入し、代理母となるマウスやラットの子宮に移します。胎児が成長し、体内に人の膵臓を持つマウスやラットができると期待しています。この胎児の臓器を移植に用いることで、拒絶反応が起こりにくい移植治療が可能になるとしています。この度、人のiPS細胞を含んだ受精卵を子宮に戻すことが認められたのはマウスとラットです。人間と大きさが近い臓器を持つサルやブタの同受精卵は、体外での培養に限定されます。そこで、同研究チームは、マウスなどの研究を進めて、大型の動物での臓器作製につなげていく計画です。
(用語解説)
(参考資料)
(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)
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