名古屋大学大学院医学系研究科糖尿病・内分泌内科学の笠井客員研究員、須賀准教授および有馬教授らの研究グループは、ヒトiPS細胞を用い、成熟した機能的な下垂体ホルモン産生細胞を作製する方法を確立したと発表されました1),2)。下垂体の3次元器官形成については、2011年に理化学研究所笹井グループディレクター(当時)と須賀研究員(当時)、名古屋大学大学院医学系大磯教授(当時)を中心とした研究グループが世界で初めて、ES細胞の培養から試験管内で実現することに成功されています3),4)。
下垂体は成長・代謝・ストレス反応など多岐にわたる生命現象を制御するのに重要な役割を担っており、頭蓋骨の中で脳の下に存在する小さな内分泌器官です。前葉と後葉からなり、前者は副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)注1)など、6種類のホルモンを分泌し、後者は抗利尿ホルモンを分泌します。前葉は副腎皮質、甲状腺、性腺など数多くの末梢ホルモンの分泌を調節しているため、下垂体ホルモン分泌が障害されると、結果的に副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモン、性ホルモンなどの分泌にも異常が生じ、ホルモンの種類により多彩な症状が現れます。特に副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が低下しましと副腎不全を起こし、生命の危機に陥います。現在、下垂体ホルモン産生細胞の機能低下に対する根治療法はなく、不足しているホルモンを投与する補充療法が行われています。しかし、補充治療では変動するホルモン必要量に対して十分対処できない課題があり、補充するホルモンの不足による副腎不全やホルモン過剰による糖尿病や高血圧の発生リスクがあるとされています。
当該研究開発は、疾患特異的iPS細胞を用いた難病等の疾患発症機構の解明、創薬研究や予防・治療法の開発等をさらに加速させるとともにiPS細胞の利活用を促進することにより、iPS細胞等を用いた研究の成果を速やかに社会に還元することを目指す、「再生医療実現拠点ネットワークプログラム、研究拠点Ⅱ」で推進されています6)。
生体と同様に周囲の環境に応答できるホルモン産生細胞が作製できれば、より高度な恒常性が維持でき、これまでの補充療法よりも優れた治療法になる可能性があります。同研究グループは2016年にヒトES細胞から下垂体ホルモン産生細胞の作製を実現しています。この度、同培養方法を改良することで、ヒトiPS細胞からの下垂体ホルモン産生細胞作製に成功しました。加えて、1つの組織の中に下垂体ホルモン産生細胞と視床下部注2)ホルモン産生細胞が共存している組織、視床下部-下垂体ユニットの作製を可能にしました。
視床下部-下垂体ユニットが共存することで、下垂体ホルモンの分泌能力が向上し、マウス成体の下垂体ホルモン産生細胞と同等の水準になりました。また、視床下部-下垂体ユニットを低グルコース液注3)に浸したところ副腎皮質刺激ホルモンが分泌されたことを確認されました。このことは、低グルコースに対して視床下部と下垂体が協働していることを示しており、この度作成できた視床下部-下垂体ユニットが周囲の環境に反応する機能的な細胞組織(オルガノイド)であると判断されました。
当該研究の成果は、次の通りです
iPS細胞から機能性を有した下垂体の作製に成功したことで下垂体の機能が低下した患者さんに対する再生医療の実現に向けた研究に弾みがつくだけでなく、下垂体と視床下部に関連した疾患の病態研究などにも役立つと考えられています。
(用語解説)
(参考資料)
(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)
プライバシーポリシー
再生医療推進センターは再生医学、再生医療の実用化を通して社会への貢献を目指す非営利活動法人です。
Copyright © NPO法人再生医療推進センター All rights reserved.