NPO法人再生医療推進センター

No.91 再生医療トッピクス

3次元構造を持つ人工血管の作製に成功

血管に関する臨床研究及び治療の状況

我が国の末梢動脈疾患は、高齢化や生活習慣様式の欧米化に伴って、年々増加しています。ここでは、栄養や薬剤を供給可能な、実際の血管に似た3次元組織の作成に成功した研究の概要と、血管に関する臨床研究並びに治療に関する再生医療等について、再生医療実用化研究事業注1)と厚生労働省が公開している再生医療等提供計画に基づいてまとめました。

1.再生医療実用化研究事業のもとで研究開発支援中の臨床研究課題および治験課題

血管に関する臨床研究・治験の状況1)は次の通りです

  1. ①重症下肢虚血:日本大学医学部 松本教授 重症下肢虚血に対する脱分化脂肪細胞注2)(DFAT)を用いた細胞治療の実用化
  2. ②閉塞性動脈硬化症:京都府立医科大学大学院 的場教授 重症虚血肢に対し、筋組織酸素飽和度(StO2)をモニタリングする近赤外線分光装置(NIRS)を使用した至適運動療法を確立する研究
  3. ③細胞製人工血管:佐賀大学医学部 中山教授 バイオ3Dプリンタを用いて造形した小口径 Scaffold注3) free細胞人工血管の臨床研究

2.第二種再生医療等・研究に関する提供計画2)

第二種再生医療等・研究に関する提供計画では次の通りです。

  1. ①下肢血管再生:医療法人沖縄徳洲会湘南鎌倉総合病院 自家末梢血CD34陽性細胞注4)移植による下肢血管再生療法
  2. ②下肢血管再生:京都府立医科大学附属病院 バージャー病注5)に対する自家骨髄単核球細胞を用いた治療
  3. ③重症虚血肢:新潟大学医歯学総合病院 重症虚血肢患者に対する体外増幅自己赤芽球注6)移植による血管新生療法
  4. ④重症虚血肢:名古屋大学医学部附属病院 ヒト皮下脂肪組織由来間葉系前駆細胞を用いた重症虚血肢に対する血管新生療法についての研究
  5. ⑤血管再生:熊本大学病院 末梢血単核球注7)移植による治療

3.第二種再生医療等・治療に関する提供計画3)

第二種再生医療等・治療に関する提供計画では以下の通りです。

  1. ①動脈硬化症:北青山Dクリニック 自家脂肪由来間葉系幹細胞(局所注射投与)を用いた治療
  2. ②動脈硬化性心血管病変:医療法人社団HELENE表参道ヘレネクリニック 自家脂肪細胞由来間葉系細胞の培養ならびに静脈投与
  3. ③動脈硬化症:医療法人社団みき会サンフィールドクリニック 自己脂肪由来間葉系幹細胞治療
  4. ④動脈硬化症:東京プライベートクリニック 自己脂肪由来間葉系幹細胞を用いた動脈硬化症に対する治療
  5. ④脳血管障害:医療法人社団秀博会 BTRアーツ銀座クリニック 自己脂肪由来間葉系幹細胞を用いた脳血管障害
  6. ⑥血管再生:国立大学法人三重大学医学部附属病院 末梢血単核球移植による血管再生治療
  7. ⑦血管再生:京都府立医科大学附属病院 単核球細胞による血管再生療法
  8. ⑧血管新生:社会医療法人令和会熊本リハビリテーション病院 重症虚血肢に対する脂肪組織由来再生(幹)細胞を用いた血管新生療法
  9. ⑨重症下肢虚血:医療法人社団弘道会 第2西原クリニック 自己脂肪由来幹細胞を用いたバージャー病や糖尿病性足潰瘍などの疾患の治療
  10. ⑩脳血管障害:ヴィヴィアン美容クリニック 自己骨髄由来幹細胞を用いた脳血管障害の治療

4.3次元構造を持つ人工血管の作製に成功

産業技術総合研究所注8)の細胞分子工学研究部門の木田グループ長らのグループは、培養対象の細胞に培養液を流したり、電気刺激を加えたりできる「組織培養デバイス注9)」を用いて、栄養や薬剤を供給可能な、実際の血管に似た3次元組織の作成に成功したと発表しました4),5)。作製に成功された人工血管は、主血管と毛細血管に分かれており、実際の血管に近い構造を持ち、培養液を流すことで、血液が臓器に運ばれるまでの環境を模倣できるということです。これにより、従来2次元的に模倣されてきた環境に比べ、より実際の体内に近い3次元的な組織の作成が可能となるため、医薬品開発、再生医療、がん研究の分野での応用が期待されます。

創薬、再生医療やがん研究の分野では、細胞と組織ゲル注10)を組み合わせてヒトの臓器や腫瘍を模倣する人工組織「3次元組織」が注目を集めているそうです。それは、同3次元組織が医薬品の検査、失われた臓器・組織の置換え、抗がん剤の試験への応用が期待されているからです。臓器・組織を治療するための十分な3次元組織を作製して効率よく酸素と栄養を供給したり、また医薬品の試験のため3次元組織の内側に薬剤を流し込んだりするためには、この3次元組織に、実際の組織にある動脈のように送液できる大きな血管と、そこから枝分かれする毛細血管を作ることが求められますが、困難でした。

そこで、同研究グループは、幹細胞などの研究や培養デバイスの加工技術を応用し、新しい機能を持った細胞の作製や3次元組織の開発、培養デバイスや医療機器の開発と、それらの応用を目指した研究開発を推進してきました。独自に開発した組織培養デバイスを用いて、3次元組織に実際の臓器と同じような主血管と毛細血管を作る方法を開発しました。臓器の機能を担う実質細胞注11)、血管の元になる血管内皮細胞、血管の形成を助ける間葉系幹細胞を培養皿で増やした後、コラーゲンと混ぜて培養デバイスに流し込んで3次元組織を作製しました。この3次元組織にあらかじめ埋め込んでおいたニードルを引き抜いてトンネルを作り、そこに培養デバイスの流路から血管内皮細胞を流し込み、2時間程度、培養することで、トンネルの壁を覆うように血管内皮細胞を接着させて主血管としました。その後、培養デバイスに培養液を流しながら培養することで、主血管の周りの血管内皮細胞の活動を促進して毛細血管を作らせました。なお、培養液からの酸素・栄養の供給や、流れから受ける刺激によって血管内皮細胞が活性化されると思われるそうです。作製した3次元組織は、培養デバイスで培養液を流しながら1週間程度維持することができたとそうです。

培養液を流通しながら培養した3次元組織を顕微鏡で観察されたところ、主血管から毛細血管が枝分かれしている様子が観察できたそうです。また、実質細胞として肝臓に由来する細胞(肝細胞や肝がん細胞)を使うことで、組織の中で肝臓の機能を示すタンパク質の発現や、薬剤の代謝を計測できたそうです。この技術は細胞の種類やデバイスの形を変えることで、肝臓だけでなく膵臓や脳などのさまざまな臓器の一部を模した組織や、膵がん、脳腫瘍などを作ることが可能だそうです。

今後は、より大きな組織(臓器)の作製や、がんモデルでの抗がん剤の評価を行い、iPS細胞由来の細胞を用いた組織の大量生産・高機能化や、他のさまざまな種類の細胞を材料に使って脳や膵臓、小腸を作製するとしています。

(用語解説)

  • 注1 再生医療実用化研究事業:2015年4月には国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が設立され、AMEDで実施している研究事業です。AMEDは再生医療研究開発においては、基礎研究から臨床段階の研究まで一貫した支援を行うとともに、再生医療関連事業のために基盤整備を行っています。
  • 注2 脱分化脂肪細胞(DFAT):成熟脂肪細胞を天井培養によって脱分化させることにより得られる間葉系幹細胞と同等の多能性を有する細胞です。
  • 注3 Scaffold(足場):細胞の接着、増殖、分化を制御するための細胞培養基材および体内での再生誘導のための細胞の周辺環境のことです。
  • 注4 CD34陽性細胞:骨髄や血液中に存在する未分化な細胞で、血流障害を起こした臓器や組織に移植されると、血管を形成する細胞になる能力があるとされています。
  • 注5 バージャー病:Leo Buerger氏に報告されたことから、バージャー病と名づけられた病気です。四肢の末梢血管に閉塞をきたす疾患であり、それにより、四肢や指趾の虚血症状(血液が十分供給されないためにおこる組織の低酸素症状)が起こる病気です。
  • 注6 赤芽球:骨髄中にある赤血球の若い細胞のことです。最も未熟な前赤芽球から好塩基性赤芽球、多染性赤芽球、正染性赤芽球の順で成熟します。
  • 注7 単核球:末梢血から分離された単球やリンパ球を含む単核細胞です。
  • 注8 産業技術総合研究所:国立研究開発法人産業技術総合研究所は、我が国最大級の公的研究機関です。5領域2総合センターがあり、全国11か所の研究拠点で約2300名の研究者が中核的、先駆的な立場で研究開発が行われています。
  • 注9 培養デバイス:単純な培養皿ではなく、培養している細胞に対して培養液の流れを与えたり、電気刺激を与えたりする機能を有するデバイスです。
  • 注10 組織ゲル:細胞が接着するための足場となるゲルのことです。
  • 注11 実質細胞:肝細胞などの臓器の主要な機能を担う細胞のことです。

(参考資料)

  1. 国立研究開発法人日本医療研究開発機構:適応部位からまいた臨床研究・治験の状況、再生医療研究開発2020、p7
  2. 厚生労働省ウエブサイト:第二種再生医療等・研究に関する提供計画
  3. 厚生労働省ウエブサイト:第二種再生医療等・治療に関する提供計画
  4. 産総研ウエブサイト:人工組織に血管を作製する技術を開発 -組織培養デバイスを使って主血管と毛細血管を持つ生きた組織を作製-、2020年4月11日
  5. 朝日新聞DIGITAL:産総研、3次元構造を持つ人工血管の作製に成功、2020年4月24日

(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)