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再生医療トピックス
再生医療用語集
No.009 コラム鵜の目鷹の目

AIとディープラーニングと脳(7)「ピノキオの夢」

前回まで「脳の神経細胞」から指令が出て、「筋肉」を動かすまでの仕組みを見てきました。脳の神経細胞が“何故”指令を出すのかその出発点は分かっていません。その指令を出す直前に少し電気的な変化が生じます。その機序も、更にはそれがどこから来るのかは分かっていません。神経細胞体からその腕である「軸索」を信号が伝わっていくのは“電気的”信号です(No.004 コラム鵜の目鷹の目「AIとディープラーニングと脳 (2) AIと脳シグナルの出発点」で少し触れています)。といっても、脳にはコンセントがありません!イオンと呼ばれる電荷を帯びた物質が軸索の内外を移動することによってあたかも電流が流れるかのように信号が伝わっていきます。といっても“イオン”だって自由に出入りすると適切な信号になりませんし、第一出っ放し、入りっぱなしでは困ります。実はこの出入りはエネルギーを使ってコントロールしています。このエネルギーのもとはブドウ糖と酸素です。


そのように電気的信号として軸索を伝わっていくのですが、その末端、つまりシナプスで今度は「化学的」信号に変えられます。この物質のことを「神経伝達物質」と呼びます。あくまで信号なのですから、出っ放しではダメです。合図のタイミングこそが大切。赤信号が付かなくなっても困るけれど付きっぱなしでは困ります。神経伝達物質の幾つかは分かっています。中にはお薬やサプリとして入手可能です。でも飲んだら良い=補充したら良い;ことにはなりませんよね。例えば、ピアノは音が出れば良いのではなく、大切なのは「音階」や「リズム」です。認知症のお薬や記憶力を良くするお薬がまだない理由の一つです。


折角ですので、少し詳しくお話ししますと、イオンはたんぱく質でできている特殊な通路を通ります。勿論顕微鏡ですら見えない位小さな入口。神経伝達物質は神経細胞体で作られて軸索の中を流れていきます(軸索流)が、この流れも両方向あります。更に、軸索から放出された神経伝達物質は、目標の神経細胞の特定の部位にだけ着地できます。更に更に、残った神経伝達物質は元の神経細胞に戻って再利用されます。ミクロの世界で繰り広げられる不思議世界。人の体は決して単純な操り人形ではありません。AIはどこまでこの「生命の不思議」に迫れるでしょうか?


当コラム 「AIとディープラーニングと脳(7)ピノキオの夢」で、最も単純な「錘体路系」についてのお話はほぼ終わったことになります。再生医療で「治る」ためにはこの障害を治す必要があります。必ずしも錘体路系だけで「動く」訳ではないので、麻痺を治すには別の系も修復しなければなりません。筋萎縮性側索硬化症(ALS)はこの錘体路系が比較的純粋に障害される病気です。

(neuron)