新型コロナウイルス感染症に対する間葉系幹細胞治療研究の現状について報告されたので紹介します(Stem Cells and Development, Stem Cell–Based Therapy for Coronavirus Disease 2019. Robert Chunhua Zhao Published Online:17 Apr 2020 https://doi.org/10.1089/scd.2020.0071。
<呼び方の説明>
この新型コロナウイルスは重症急性呼吸器症候群(SARS: severe acute respiratory syndrome)を引き起こすことがあるため、SARS-CoV-2と名付けられました。このウイルス感染症をCOVID-19(The novel coronavirus disease 2019 “2019年新型コロナウイルス感染症”) と呼びます
<治療薬開発状況>
このSARS-CoV-2が重症急性呼吸器症候群を引き起こす機序は不明ですが、ウイルスに対する免疫反応が関与しているようです(Nature, 09 Apr 2020, 580(7803):311-312 DOI: 10.1038/d41586-020-01056-7 PMID: 32273618 https://www.nature.com/articles/d41586-020-01056-7)。免疫系は細菌やウイルス、癌といった“敵”に立ち向かう防衛システムですが、これが暴走して味方、つまり自分の細胞を攻撃しているようです(免疫細胞の調節にサイトカインと呼ばれる蛋白質が働いていますがこのサイトカインが“嵐”の様に暴走することからサイトカインストームと呼ばれます)。しかしこの暴走を止めるためにステロイドホルモンやその他の免疫抑制剤の治験(治療研究)が始まっていますが、COVID-19に はあまり効き目がないばかりか、かえって病気を長引かせてしまうことが懸念されています。免疫系が暴走しているとは言っても、全体としてはウイルスに立ち向かって体を守っているからです。インターロイキン6(IL6)がCOVID-19 では増えています。この阻害剤と他の抗ウイルス薬とを組み合わせて免疫系をシャットダウンすることなく暴走を止めることができないか模索されています。他にもインターロイキン1(IL1)の阻害剤はCD4やCD8 T細胞と呼ばれるウイルスと戦うのに必要な免疫系を抑えることなく暴走を抑えることができるかも知れないと期待されています。
<間葉系幹細胞治療の背景>
間質性肺炎、アルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症などの難病に治療効果が期待されています。
細胞修復・再生、神経成長因子、異常蛋白除去などの作用に加えて免疫系を調整する働きが知られています。調整系樹状細胞(Regulatory DCs)は免疫系の恒常性を保ちある種の免疫反応を抑制します(タイプTh2免疫反応)。間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells (MSCs))は成熟した樹状細胞からこの調整系樹状細胞を誘導します[1]。CD34+細胞から古典的樹状細胞への分化を抑えて調整系樹状細胞への分化を促進することも知られています[2]。パイロット臨床研究ではCOVID-19 の方にACE2⁻MSCsを投与したところ調整系樹状細胞が劇的に増加し、TNF-αは減少、インターロイキン10は増加しました[3]。
<治験の進捗状況>
中国では2020年4月9日時点でCOVID-19 に対するMSCs治験583件が登録されているそうです。他にもブラジル(NCT04315987)、ヨルダン(NCT04313322)、フランス(NCT04333368)の科学者がCOVID-19 に対するMSCs治療が行われていると述べています。
PubMedでCOVID-19 、Stem cellで検索すると2020年4月26日現在44件の論文が表示されます。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=covid-19+stem+cell
<マトメ>
COVID-19の重症化には免疫系の暴走があるようです(サイトカインストーム)。間葉系幹細胞の免疫調整能に治療効果が期待されます。
(参考資料)
(neuron)