再生医療相談室

No.015 コラム鵜の目鷹の目

新しいアルツハイマー型認知症医薬品について

アルツハイマー病の治療薬としてアメリカの製薬会社「バイオジェン」と日本の「エーザイ」が開発したアルツハイマー病の抗体薬「アデュカヌマブ」について、アメリカのFDA=食品医薬品局は「臨床試験の結果、脳内の異常なタンパク質『アミロイドβ』の減少が確認され、患者の症状への効果が合理的に予測される」と評価し治療薬として承認したと発表しました。


アデュカヌマブは症状の進行を抑えることを目的とした薬で、脳にたまった「アミロイドβ」と呼ばれる異常なタンパク質を取り除き、神経細胞が壊れるのを防ぐとしています。アルツハイマー病の新薬が承認されたのは2003年以来18年ぶりで、アミロイドβに作用する治療薬の承認は初めてです。今回の承認は深刻な病気の患者に早期に治療を提供するための「迅速承認」という仕組みで行われたため、FDAは追加の臨床試験で検証する必要があり、その結果、効果が認められない場合には承認を取り消すこともあるとしています。この薬については去年11月、FDAの外部の専門家委員会が承認に否定的な結論をまとめていて、FDAが追加のデータを求めて審査期間を延長していましたが、FDAは6月7日の会見で「専門家委員会の意見を慎重に検討し、データを詳細に検証した結果、迅速承認すべきだという結論に達した」としました。

この抗体薬「アデュカヌマブ」は、治験の中間段階の結果の解析で有効性を認められないとして2019年に第三者委員会から中止を勧告されて実際治験は打ち切りになりました。その後、複数の治験結果を合わせた解析で脳内のアミロイドβを59〜71%減少させ、一部の群(高容量投与群)では認知機能の悪化を22%抑制したと報告しました。専門家委員会メンバーの3人が承認に不服を示し辞任されたそうで満場一致の承認ではなかったようです。

一方、アメリカでアルツハイマー病の患者やその家族の支援を行うアルツハイマー協会のジョアン・パイク博士は、「アデュカヌマブ」の承認について、「アルツハイマー病の治療にとって歴史的なことだ」と述べたうえで、「この薬によって患者と、家族や介護者が、治療の在り方や、何をして過ごしたいかを考える時間が与えられると信じている。アルツハイマー病の診断に人々の関心が高まり、多くの人が早期の診断を受けることで、人生や治療についての話し合いを持つ機会をもたらすだろう。」と肯定的に述べ、高い期待を示しました(NHK NEWS WEB(2021年6月8日))。


それでは、少し抗体薬「アデュカヌマブ」について考えていきましょう。

アルツハイマー病の進行を遅らせる薬はありませんでした。アデュカヌマブがアルツハイマー病の進行を遅らせることができれば、最大限に画期的なことと言えるでしょう。アルツハイマー病が見つかって100余年、その原因がついに分かるかもしれません。「アミロイドが原因」とするアミロイド仮説を強く支持するからです。原因が分かれば薬も作りやすくなります。アデュアヌマブと同じアミロイドに対するモノクローナル蛋白は既に沢山作られていますのでより良い薬が出てくる期待もあります。抗体薬では脳内で抗原抗体反応を起こすため脳の浮腫や出血を起こすことがあるので抗体薬以外の方法でアミロイドを除去する薬が開発されるかもしれません。アミロイドの分解酵素は治療薬の候補になるでしょう。アミロイド分解酵素の一つにネプリライシンというタンパク質があります。実は患者さん自身の間葉系幹細胞はこのネプリライシン活性を持っています。幹細胞を培養して点滴で患者さんに戻せば、細胞は脳に入ることが知られています。幹細胞には神経細胞を修復する働きがあることも分かっているので一石二鳥です。更に炎症を抑えたり、血流を改善する効果もあるので期待が膨らみます。

(adipocyte + neuron / 20210624)